祭りの前に。
「にーちゃんにーちゃん」
「んー? どうした?」
「ほまれとねーちゃんがなー、あそんでくれるかとおもったらそんなことはなかったー」
「あー、それはダメだねぇ」
「なー。ゆえんとあそべばいいのに」
「2人はどうしたの?」
「なんか、はしってった!」
「走ってった?」
「はしって、どっかいったー」
さっきドタドタ聞こえていたのはそれか。
私もそろそろ仕事だから、両親が帰ってくるまではいてほしかったんだけどなあ。
ゆえんを1人で留守番させるのは、さすがに不安だし。
とりあえず、遅刻の連絡を入れておくことにする。
「『弟が勇者になり、「俺は魔王を倒しに行く!」と外に出たまま帰ってきません。妹を1人にするのは心配なので、両親が帰ってくるのを待ちます。1時間ほど遅れます』」
送信。
「ほまれ、ゆうしゃ?」
「そうそう、薔薇勇者」
最近薔薇って表現も聞かなくなったよねぇ。
「しらないひとのいえにおじゃまして、ろーごのたくわえをもってっちゃう、ゆうしゃ?」
「その勇者だ」
年金生活のご老人の、残り少ない財産を奪うなんて!
なんて鬼畜な。
だれだ、こんな少女にいらない知識を教えたのは。私か。
ところで、少女と幼女の線引きってなに? ゆえんは小学1年生なんだけど、少女でいいんだろうか。小学生女子、の略で少女? 字が違うし、それだとJSになっちゃうか。卑猥だねぇ。
「ほまれはわるものだったのか……」
ちょっと目を離したら、ゆえんが落ち込んでいた。
「いいやつだったのに」
「や、それだと死んでるからね?」
「あれ?」
だれだ、こんな少女にいらない知識を教えたのは。私か。
おとーさんおかーさん、ごめんなさい。
ゆえんは面白い子に育ちました。
「勇者ほまれとその仲間は旅立っちゃっていそがしいから、ゆえんは私と遊ぼうか?」
「にーちゃんはゆえんにあそんでほしい?」
「うん。にーちゃん名前の通り暇だから」
自分たちの名前もひらがなだからと、漢字を使わずに。
でもひまって名前だと残念だからと、別な読みで。
いとま。
余裕ある人生を、って願いを込めて付けられた名前なんだけど、意味わかんないよね。両親共に仕事が忙しかった時期らしいから、休みがほしかったのかもしれない。だからってもうちょっとなにかしらあると思うんだけど。
あと、両親は隠しているつもりらしいけど、他にも意味があることを私は知っている。
父親、いわれ。母親、まいん。
いわれとまいんの息子、を略していとま、だ。
惚気に息子の名前を使うなと言いたい。
ほまれもゆえんも、そういう意味では私の名前と同類ではあるのだ。私ほど露骨じゃないだけで。
まあ、私は気に入ってるんだけどね? いとまって名前。
愛はあるし、ねぇ。
「で、なにして遊ぼうか?」
「ぺっとぼとるで、こー、ぶんっ! って!」
「危ないから、わるものの真似はしないように」
短編じゃなくて連載な気がしてきた。