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雪の桜の木の下で

 人の姿をしているのに、異能故に人から忌み嫌われる鬼子たち。

 "玩具"と呼ばれるその異能は、時に人を傷つける。それ故に業と称され、遠ざけられた。

 鬼子たちばかりの街で、少年は少女に出会った。

 少女は自身が持つ"童話少女"という玩具──人の心を彼女の"絵本《想い》"に閉じ込める幻惑の業──故に追われていた。追っ手から逃げる最中、彼女は彼に出会ったのだ。

 追われる少女を守る少年。──いつしか少年は少女に惹かれていった。

 "童話少女"のせいだと、人々は揶揄するだろう。そうかもしれない。でも──守りたいという僕の願いは僕のものだ。

 譬、たった一人の親友と戦うことになっても。

 譬、家族全員を殺すことになっても。

 譬、誰一人信じられなくなっても。

 君がいれば、それでいい。

 君はいつも過去ばかり見る僕の"玩具《銀時計》"を動かしてくれるから。

 だから僕は、いくらだって戦える。

 君を守る、そのために──




「僕が君を守るよ。ナナセを殺しても。だから逃げて、アリス」

「ロイ、やめて! 逃げるなら、一緒に。貴方はこれ以上あの子と戦ってはいけないわ」

「アリス」

「貴方が……貴方の心が壊れてしまう……!」

「アリス」

「ロイ……やめて……」

「……アリス」

「な、に……?」

「いいんだ、壊れても」

「えっ……?」

「アリスのためならいくらでも壊れるよ。それで君が守れるなら。君が生きていてくれるなら。それだけで、僕はいいんだ」

「ロイ…………そん、な……」

「……ふふっ、冗談だよ。ごめんね」

「……本当?」

「うん。だから……約束。必ず君の元に帰るよ」

「……いつ、会える……?」

「そうだなぁ……次に桜が咲く頃には」

「桜……」

「ほら、もう雪が降っているでしょ? 雪が止めば、桜なんてすぐ咲くよ。──すぐ戻る。だから」


 雪の中で、少年は微笑む。


「待っていて」


 その澄んだ笑みに偽りがあるとはとても思えなかった。

 だから少女は頷いた。


「待ってる──ずっと」


 互いに頷き合い、別々の方向へ歩き出す。





君を守る

そのためにきっと帰すから




銀色の時計

僕がここにいる証

そう 君と出会ったあの日から

動き始めてる


刻を刻む

鐘音が鳴り響き

君を責めさいなむ

少しでいい

力になれたら……と思った


君を守る そのためなら

この命が果てようとも

桜の散る 季節にはきっと帰るから


君を守る 僕の誓い

この命が果てようとも

守り抜くと 積もる雪に誓った




壊れた人形

操られて笑っている顔

君に見せたくないからと

置き去りにしてた


歩み止まる

足跡が消えていき 僕はひとりぼっち

どうか この手離さないでと……

願った


君を守り、僕は行くよ

この命が果てようとも

桜の舞う季節にも似た粉雪の中


君を守る そのためなら

この命が果てようとも

痛みなんて 忘れてしまえるから……




思うだけで

望むだけで

一体何が守れるのか

答えは出ていないけれど もう僕は決めた──




それでも僕は

この手を今

君のために伸ばす




君を守る そのためなら

この命が果てようとも

桜の咲く季節にはきっと会えるから

君を守る 僕の誓い

この命が果てようとも

最期の嘘 君のために──




守り抜くから






「……ごめんね、アリス」


 少年の前には既に空となった同じ年頃の少年。倒れ伏すその少年はひふを裂かれた綿人形のように、そこにいた。


 雪が降り積もる。


 "人形"少年の前に立ち尽くしていた少年も、地に倒れ伏した。

 彼に雪が降り積もる。──彼に触れた雪が淡く色づく。それはまるで──

 春に咲く、桜の花──





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