表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/38

ひとかたのやかた

 その世界には、呪いをかける"魔導師"、呪いを解く"呪詛破壊者"、何の力も持たない"一般人"、呪いを受けない"人形職人"という四種類の人間がいた。

 少年アルルは"一般人"の母を持つ。彼の母は極端に呪いを恐れ、呪いに少しでも関わりのあることは遠ざけていた。

 そんな暮らしの中である日、アルルは人形の少女と出会った。

 メイ、という名を授かった彼女は、心優しい"人形職人"に作られ、人間を憎む"魔導師"に呪われた喋る人形だった。


 その出会いから、歯車は動き出す──





それは人形ひとかたの夢


布に全部詰めたの


人形職人そのひとは祈っていた


誰かに届くように




それは一時ひとときの夢


胸に全部詰めたら


少年は出会った


雨に濡れた人形しょうじょ




人形ひとかたの少女は


夢の語り部となり


少年の隣で


在り続けたいと願う──




それは泡沫の夢


胸に秘めた思いを


少年は語らず


少女の髪を結う




人形ひとかたの夢──


彼とともにあること


少年の夢


人形しょうじょを守ること──




ずっとずっと側にいるよ


それは叶わぬ夢


だから言わずにいた


でも




でも




伝えたかった……




それは真夜中の夢


赤い空に燃えゆく


ひかりは優しくて


──残酷に照らした




私はここにいるよ


それを伝えたくて


人形しょうじょ少年かれを探した




あの子はどこにいるの……?


姿 求め、さまよい


人形ひとかたたちが集う館に足を踏み入れた




それは人形ひとかたの夢


布に全部詰めたの


優しい思い出が


二人を繋ぐように






 家が真っ赤に燃えているのを、アルルは見つめることしかできなかった。

 あの中には母さんがいるのに。

 メイがいるのに──

 家は赤々と燃えている。


「おい、何をしているんだ!?」

 家に入って行こうとするアルルを通りかかった男が止める。

「中に、母さんがいるんだ。友達がいるんだ……助けなきゃ」

「この炎じゃ、もう無理だ。諦めるんだ」

「……いやだ……」

「おい、待て!」

 止めるその手を振り払って、アルルは炎の中へ進んだ。

「あの子……そんなにお母さんが大事なのかしら」

「右目をあんなにされたのにねえ……」

 街の人々が囁き合う。

 アルルの髪に隠れた右目は、抉られていた。喋る人形のメイを呪いと恐れた母にやられたのだ。


 それでも、母さんはたった一人の家族なんだ。

 そしてメイは──やっとできた、友達なんだ。


 希望を捨てないアルルをぜつぼうが包み込んでいく。

 ──母は既に事切れていた。全身を炎に焼かれ、真っ黒にして。

 ──メイはどこにもいない。部屋にいたはずなのに。

 ……布製の人形だから、もう燃えてしまったのか……?

「いやだ……」

 そんなの、いやだ……!

「そうだ……これは夢なんだ。とても悪い、夢……母さんも、メイも、こんなに簡単にいなくなるなんて、夢なんだ……」

 大切なものが全て失われるなんて、夢なんだ。夢に決まっている。……そうじゃなきゃ、僕は全部を失ってしまう。

「夢なら、早く覚めてよ……ああ、そうか」

 母さんもメイも、死んだから、夢から戻ったんだ。僕より一足先に。

 ──待っていてくれればよかったのに。

 でも、戻れば二人がいる。なら僕は──

「僕が死ななきゃ、覚めてくれないんだね……?」


 炎は、優しく、残酷に、彼を包んだ。




「ようやく消えた……ん? あの子供、無事だぞ!!」

「えっ!? ……あの中でよく……ともかく手当てを」

「……でも、目覚めても、悲しいわよね、きっと……」

「ああ……家は全焼だからな。この子の母や友達の生存は絶望的だろうし」

「でも……それでも一人でも助かってよかったわ……」




 炎は残酷な悪夢げんじつを、焼き尽くしてはくれなかった。


「ふーん、メイちゃんっていうのね。……これからどうしたい?」

「アルルに、会いたい。メイはここにいるって、伝えたい……」

「じゃあ、行きましょう」




 そして、旅が始まる──





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ