萌芽の歌
ミクの願いを叶えるには、サヤで世界の楔を壊すしかない。
では、世界の楔とは……?
「お前だよ」
カイはシュウに言った。
「楔は、お前だ」
「……ああ、やっぱり」
だから、僕にしか叶えられない願いなんだ……
シュウはすんなりと事実を受け入れた。
「驚かないんだな」
「そんな気がしてたから」
三千年前の仲間たちがこちらに残っているのに、自分だけ解放されて、外の世界にいた。しかし、それほどシュウに刻まれたこの世界との因果関係が簡単に消え去るとは思えなかった。
「もし、僕じゃないとしても、誰が楔かは想像がつく」
「ああ……きっと、あいつだろう」
名前を思い出せない、もう一人の仲間。
それはいい。
シュウには気がかりなことがあった。
楔を、壊さねばならない。──壊すというのが何を意味するか、なんて容易に想像がついた。
「……覚えていないとしても、サヤに彼を壊すのは、辛いと思う」
「おい、シュウ……」
シュウの言わんとするところを察し、カイが声を上げるが、その瞳が揺らぐことはない。
「僕が、死ぬよ」
貴方に優しい雨が降るように
貴方を優しく日が照らすように
日だまりの中で
水溜まりが跳ね
きらきら貴方を包む光
幸せだと
仕合わせだと
感じていてほしい
声が届かなくても
私は手を伸ばすから
手が届かなくても
その背を追い続けるから
貴方にいつかまた会い
伝えたいから
ありがとう
絶唱姫 ミク
第九楽章 「萌芽の歌」
「世界に優しい崩壊を」
「世界に優しい滅亡を」
「私が望む残酷な願いが」
「貴方にとって幸せならいいな」
「……でも、選ぶのは貴方」
「大丈夫、貴方が何を選んだとしても、貴方が選ぶのなら、それでいい」
「貴方が幸せなら、それでいいの……」
同じ頃。
「俺を殺せ。そうすれば、全てが終わる」
ユウはサヤにそう告げた。
サヤは、すらりと黒い刀身を抜き放つ。その切っ先がユウの首筋に触れ、そこからつ、と紅いものが伝う。
「さあ」
サヤの、選択は。
第一〇部へ続く。




