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結実の歌

隻眼の少年、カイは灰眸種の翡翠族で、隠された右の目には"禍ツ眸"という特殊な呪いがかかっている。

カイはシュウ、サヤとともに吸血鬼狩りの旅に行くこととなった。

サヤが依頼を探しに行くのを待つ中、カイはシュウに語った。

「俺は三千年……いや、それよりもっと前から知っているんだ。この世界のこと。この呪いの影響で、長命なんだ」

肉体は死んでるけどな、と笑った。

「で、気の遠くなるような昔、俺たちはともに戦っていた」

俺たち──それは、誰を示すのだろうか。


「三千年前の話をしよう」


三千年前、人間と吸血鬼は同じ世界にいて、人間は吸血鬼に虐殺されながら、次が自分ではないことを祈りながら、生きていた。

「そんな中、吸血鬼を倒そうと決起した者たちがいた。寄せ集めの"騎士団"。でも、吸血鬼と渡り合う力を持った騎士団だった」

そこで組んだ六人のパーティ。それが騎士団幹部だったメア、メアと幼なじみの魔法使いセナ、歌で吸血鬼を祓う力を持つ一族のミク、禍ツ眸で人間に紛れた吸血鬼を見抜くカイ、ミクの兄、吸血鬼に一族を皆殺しにされた生き残りの少年の六人だ。

「ミクの兄はシュウ……お前にそっくりで、お前と同じ名だった」

「うん……セナもそう言ってた」

やはり、関係があるのだろうか。

カイは続ける。

「俺たちは敵無しだったよ。……でも、吸血鬼は、やられるばかりじゃなかった。何をしたと思う?」

同胞の吸血鬼がこれまで餌程度にしか思っていなかった人間に殺されていく──そんな光景に危機感を抱いた吸血鬼は、仲間を増やした。

「吸血鬼は、その血を与えたものを同胞に変える……吸血鬼は、人間に血を飲ませて、俺たちと殺し合いをさせた」

終わらない戦い。

強いことが、辛かった。同胞だったものを殺してしまうのだ。

「疲れきった俺たちは、吸血鬼の中でも穏健な種族に出会った」

金瞳種──吸血鬼の頂点に立つ者たちだ。

「やつらは戦いを望まないと言った。だから、低俗な輩を封じてほしい、と俺たちに術を与えた」

それが、今"メア"を外界から隔離している力なのだという。

「そんな企みを知った吸血鬼たちが黙っているわけもなく、俺たちは襲撃を受けた。術の完成のために、メアは動けず、セナも補助で、ミクは既に吸血鬼にされ、暴走でシュウを殺しかけて自害……俺も重傷を負い、戦えるのは一人……じり貧になったとき」

カイはシュウを見た。

「瀕死のはずのお前が立っていた」





眠りなさい 夜も


私の側で


眠りなさい 朝も


夜が明けるまで




眠りなさい


過去の過ぎ去った日々よ


目覚めなさい 未来


未だ来ぬ世界




過ぎ去った日々たちを


振り返るなら


悲しみは再び帰ってくるから




眠りなさい 今は


うつつの中で


目覚めなさい


今が実を結ぶときだ




未だ来ぬ世界に


思い馳せるなら


喜びは必ず戻ってくるはず……だけど


今を生きなさい


現実いまが全てだ




眠りなさい 朝も


夜が明けるまで


目覚めなさい 夜よ


緋い月の下




終わりを夢見て


眠る子供たちは


始まりの鐘が鳴り


目覚めていく……






絶唱姫 ミク


第六楽章 「結実の歌」




「貴方はいつも戦っていた」


「誰かのために」


「彼はいつも戦っていた」


「誰かのために」


「どうして貴方や彼は、自分ばかり犠牲にするの?」


「……でも、ごめんなさい。そう、私のせい」


「願うばかりの私のせい……」


「だから、私は祈り続けることにした」


「せめて、貴方たちが休めるように」


「それが一時の儚い安息でも」


「眠れるような子守唄トロイメライを」





ずきんっ……

シュウは痛みに頭を押さえた。

以前も感じた、記憶に何かが引っ掛かったときの痛み。

「僕は、シュウじゃない……」

何を言っているんだ。記憶を失った自分がただ一つ覚えていた自分の名前がシュウじゃないか。

「僕は、その人じゃ……」

「……わかってる」

苦々しい面持ちでカイは頷いた。

「シュウは、術の完成のために死を選んだ。同じ選択をした、もう一人を救うために」

シュウの脳裏に映像が流れる。黒髪黒目に黒い服、黒い刀を持った血まみれの少年と、それを庇うように立つぼろぼろの少年。自分と同じ顔の、少年。

その手には双銃デュオ"銀の茨のシルバーブレイムアイヴィー"。それで吸血鬼を打ち倒し、肩で息をしながら立っている……

僕は、僕は……何故……

「結局、シュウが救おうとしたそいつも戦いの果てに力尽き、"メア"の中では亡骸も見つからないまま、行方知れず。……シュウは、ミクの願いで吸血鬼のいない外の世界に残された」

だから、僕は、違う……!

「……記憶に蓋をするのはいいさ。でも」

カイは黙り込むシュウの頭をぽんぽんと優しく叩いて言った。

「……この世界を終わらせるなら、お前には向き合う覚悟が必要だ」

覚悟。

ユウと同じことを言う。

世界を終わらせる?

そんなことをして、何になる。

「シュウ……"世界を終わらせる"……これは、ミクの願いだよ」

シュウははっと目を見開いた。

「……ミクの願いを叶えたいなら、やっぱり覚悟が必要なんだよ」






第七部へ続く。







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