終末の歌
シュウは思い出せない。
五十嵐 終……?
僕が、絶唱姫の兄に……
頭が、痛い。
シュウは頭を抱えて蹲る。
「シュウ様!」
サヤが駆け寄る。
「……思い、出せない……」
探している。記憶を。
失った、記憶。
僕はどんな世界にいた?
──吸血鬼のいない世界。吸血鬼はおとぎ話の中でしかあり得ない存在だった、世界……
それしか、思い出せない。
思い出せない……
いや……それが、世界……? 僕のいた……?
僕は何処にいた?
「シュウ様、無理はなさらずに。思い出すのは、ゆっくりでも構わないでしょう?」
サヤが言った。
……確かにそうだ。
何を焦っているのだろう?
「……あなた」
「なんです?」
サヤの姿を見て、セナが声を上げる。
「……いえ」
優しく、目元を緩めた。
「あなたが、彼の側にいてくれるのね」
「……?」
「主を失ったあなたが……あなたなら、シュウを救えるのかも、ね」
意味ありげな言葉を残し、セナは去って行った。
その後、吸血鬼狩りを続けて旅を続けるシュウとサヤは街である吸血鬼の狩りを依頼される。
その界隈では最も有力な吸血鬼で、大きな屋敷に住む女の吸血鬼。
しかし、何より恐れられているのはその吸血鬼に仕える一人の灰眸種の少年。
屋敷に吸血鬼狩りに向かった者は、揃って彼に撃退されるという。
それを聞き、サヤはいつになく、険しい表情になった。
「灰眸種には、大きく分けて四種族います。私と同じ黒灰の瞳を持ち、武器の扱いに長けた黒曜族。セナのように赤灰の瞳を持ち、術の扱いに長けた紅玉族。青灰の瞳を持ち、生物を操る術に長けた翡翠族。そして……銀灰の瞳を持つ、たった一人の種族……」
サヤはそこで口を閉ざしてしまった。
屋敷に辿り着く。
そこには、一人の少年が。
シュウと瓜二つの容姿を持つ、短刀使いの灰眸種。
「ここから先は、通さない。……お前に、覚悟はあるか?」
少年が問う。
そんな問いなど耳に入っていない様子で、サヤが激昂する。
「裏切りの、石英族っ……ユウ!!」
サヤは黒曜族の宝刀"黒翔"で少年に斬りかかった。
終末の鐘が鳴る
私を呼ぶ声が
木霊して消えていく
貴方を連れ去ってく……
崩壊の鈴が鳴る
貴方を呼ぶ声が
交差して消えていく
私を連れていく
終末の鐘が鳴る
崩壊の鈴が鳴る
私は何処に
貴方は何処に……?
見つからない声を
探している
終末の鐘が鳴る
私を呼ぶ声が
木霊して消えていく
貴方を連れ去ってく……
絶唱姫 ミク
第三楽章 「終末の歌」
「会いたい」
「会えない」
「……知ってる」
「それでも、私は願わずにはいられないの」
「貴方が戻ってきてくれるのを」
「ねぇ……シュウ」
少年──石英族のユウと呼ばれた彼は、サヤの剣閃を難なく避け、ただシュウだけをじっと見つめた。
「そうか。お前か……」
シュウと同じ色の眼差しで、彼を見て呟く。
黒翔を受けた短刀が、刀を弾く。
「っ……! シュウ様!!」
シュウは慌てて双銃を構える。しかし、ユウは一瞬のうちに間を詰め、シュウの首筋に冷たい切っ先を当てる。
そこで、時間が静止する。シュウの首にはユウの短刀、ユウの眉間にはシュウの拳銃。──どちらかが動けば、どちらかが死ぬ。
そんな緊張の中、ユウは問うた。
「覚悟は、あるか? 世界を終わらせる、覚悟は」
第四部へ続く。




