輪廻の歌
シュウは戦い、様々なものと出会った。
人間のいない"メア"では、人間の代わりにサヤの同胞である灰眸種の血で吸血鬼たちは生きていた。
元々身体能力に秀でた種族である吸血鬼に人形の姿に慣れていない灰眸種たちは最初、一方的に殺戮された。
戦わねば、殺される。そう知った灰眸種は武器をとり、吸血鬼と相対した。
吸血鬼は不死ではない。殺せば、死ぬ。──この"メア"において、それはいかなる生物であっても共通の事項だった。
戦わねば、殺される。生きるか死ぬか──それが吸血鬼との戦いなのだ。
サヤを始めとした吸血鬼と戦う灰眸種たちにシュウはそう教えられた。
「戦うばかりの世界──三千年経っても、この世界は変わらないのね……」
ある日、出会った灰眸種の女性がそう言った。
「……三千年?」
「ああ、あなたは知らないのね。……いや、この世界で知ってる人なんて、三千年前、ともに戦っていたメアと、ミクと、彼くらいだもの……」
その女性はセナと名乗った。
セナは語った。
「三千年前、この世界はメアが作った。人間と吸血鬼を隔離するために。……悲しい戦いを終わらせるために」
けれども、三千年経っても、この世界では戦いが続いている。
「……あの子はまだ、歌い続けているの?」
「え?」
「ミクのことよ」
セナは言った。
「あの子はきっと、ずっと祈っている。……一番大切だったあの人が……この世界を隔離するために命を賭した兄が、輪廻するのを」
輪る輪る刻の中で
見つけたの夢の欠片
そう……
ひび割れた心 閉ざし
ただ 過ぎゆく時を待っていた
死んで逝くことだけが答えじゃないと
あの人が言ってたの
だけど 私は、
輪る輪る刻の中で
見つけたの夢の欠片を
廻る廻る夢の跡で
遠い日に想い馳せて……
もう、焦がれていく扉 開けて
ただ、まだ来ぬ世界を待っていた
生きていくことだけが救いじゃないと
あの人は信じないの
だけど 私は、
輪る輪る刻の中で
失くしたの君の想い《答え》を
廻る廻る夢の中で
ありし日の軌跡《夢》を描く……
私はそう、信じていた
いつかまた 君に会えると
廻る廻る刻の中で
必ず──
輪る輪る刻の中で
見つけたの夢の欠片を
廻る廻る夢の跡で
遠い日に想い馳せてく……
絶唱姫 ミク
第二楽章 「輪廻の歌」
「私の願いを叶えるために」
「戦うことを選んだ貴方」
「その道は貴方には残酷な未来しか与えないかもしれない」
「それでも──」
「それでも、貴方の願いが叶うように」
「私は祈りながら歌います」
「この閉じた世界で、輪廻なんてあり得ないのだけれど」
輪廻。
死んだ魂は天に還り、新たな生を受け、再び生まれる。
しかし、隔離世界"メア"では輪廻はあり得ない。
「……あの子の、お兄さん?」
シュウが訊き返すと、セナは微笑みながら、悲しげに目を細め、呟いた。
「五十嵐 終。……あなたによく似ていたわ」
第三部へ続く。




