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てめえらみんな働けよ!④

一生懸命生きてます。

     *


 翌朝、快晴の下、勤労者たちの元気な声が空まで轟いていた。

 鍬はない。剣や斧が大地に突き刺さり、表面の土と、その奥深くで眠っていた豊富な養分を含む土を入れ替えてゆく。


「えいっさー! ほいっさー! えいっさー! ほいっさー!」

「フン、フンフンフンフン! フフン! ンフフ~ゥン! ムフ! ンフ、ンフンフ!」


 響く耕作の音。

 山岳の岩肌をくり抜いて造られた魔王城城下に街はない。それどころか、山岳の中腹にやや手狭な平原が広がっているだけだ。つまり、南の魔王軍は全員城内で暮らしている。山岳そのものが城なのである。


「オラオラオラオラオラオラオラァ!」

「そこ、雑にするな~っ。目に見える石は丁寧に耕作地から除けろっ」


 八本の脚で耕作地を適当に走り回って耕そうとしていた蜘蛛野郎に、おれは小石をぶつけた。


「いてっ! へっへ、どうもすいやせん」


 さらに言えばこの山岳は、シヴァールヴァーニ大陸をゆっくりゆっくり移動している。

 昨日はうっすら見えていた海が、今日はやけに近い。以前ここに勇者として攻め込んだときには、海など欠片すら見えなかったというのに。


「こら~、前足――じゃねえや。両手でひたすら掘るだけじゃダメだぞ、ポチ子。ちゃんと上下の土を入れ替えるんだ」

「わん、わん! さんぽのじかんか、アルカン?」

「ははは、こいつめ。おまえはそればっかりだな。今が散歩みたいなもんだろっ?」

「ほんとだ、さんぽだ! わ~い!」


 やはり噂通り、山岳そのものが魔物なのだろうか。

 人間軍がここへ攻め込むのは、かなり難しい。おまけにこの山岳そのものが未知の超巨大な魔物だとするなら、人体ではどう足掻いても倒しようがないだろう。

 ああ、もう。魔王だけでも手に負えないというのに。


 つまり今、おれたちは巨大な魔物である魔王城の背中を耕している。

 そこそこ育った樹もあるし、あまつさえ湖や川のようなものまで存在しているのだから、小さな魔物が少々耕すくらいは、どうということもないだろう。

 現に、地震一つ起きていない。

 それにしても――。

 おれは首にかけた手拭いで労働の汗を拭い、両手を晴天に突き上げて背骨を鳴らした。


「なんて気持ちのよさだーっ」


 うわー、おれ今生きてる! やっべ、超楽しい! 王宮みたいな堅苦しい勉強や稽古もないし、殺伐とした命のやりとりを魔物とする必要もなく、安全に、しかも確実に生命を育んでいる! これが人生の喜びってやつか!

 土の匂いが妙に心地良い。


「アニキ、マジこんな感じでどっスか? あっしらオニ頑張ったんスけど!」


 誰がアニキだ。そんなことを考えながら振り返ると、そこには猿のような魔物がいた。下位魔人種のゴブリンだ。

 ゴブリン族が耕した一画は、もはや白い砂は見当たらず、黒々とした土が表面に出ている。見える範囲で雑草や石ころ一つ見当たらないし、綺麗なウネもできている。

 やたらとムカつく喋り方をするやつらだが、なかなかの職人技だ。


「どッスか! マジどッスか! ヨー!」

「いいんじゃねえの? 下位種族って聞いてたけど、ゴブリン族もやればできるじゃないか」


 おれの半分程度しか身長のないゴブリンが、照れたように頭を掻いた。


「へへ、マジスか! アニキに言われっと、マジ照れるス! こんなんでいいならチョロチョロッスよ! ゴブリン族総出でオニ頑張ったッスからね! ――なー、みんな!」


 ゴブリン族が一仕事終えたよい表情で、口々に「マジッス」を繰り返しやがるのが、マジうぜえ。だが指導者としてはここはあえて褒め、もう一仕事させねばなるまい。

 おれは視線を東に向けた。


 耕作地の東端。アシュの受け持つ一画だけが大幅に遅れている。

 一生懸命動いているのはわかるのだが、どうにも要領が悪い。他種族のエリアにまではみ出してはウネを破壊し「魔王様、邪魔!」とか「使えねえな、魔王様!」とか言われている。


「きゃんっ」


 あ、農具にしている剣の重さに耐えきれずに後ろにコケた。ちょっと可愛い。

 それで落ち込むかと思いきや、本人はなぜか自信満々で再び剣を振り上げているのだが。


「おまえら、東の一画もやれるか? アシュんとこ手伝ってやって欲しいんだが」

「あ~……、魔王様ンとこッスか。ったく、オニしゃーねえなあ、あのガキは。だ~からあっしら、魔王様を作業に混ぜたくなかったんスよね、マジ」


 ゴブ蔵がため息をついたあと、親指を立てて気色の悪いウィンクをした。


「な~んつって? いッスよ! アニキの頼みだし! あっしらがマックス急げば? 他のやつらンとこよか早く終わるっしょ、ヨー! ――おめえらマジでやるぞらぁ! うぇ~い!」


 口々に「うぇ~い!」と叫びながら、ゴブリン族が東端へと張り切って走って行く。

 う~ん。ほんっと、ぶち殺してやりてえ言葉遣いだなあ。

 でも、やつらに限らず、どいつもこいつも、おれ自身さえ含めてみんないい顔をしている。思った以上に作業の進捗も早い。


 取り除いた石を運ぶ怪力のミノタウロス族、昨日に引き続き山に育てる作物を採りに行ったリリン率いる有翼種の魔物らはすでに本日二周目だし、その他、部族ごとに区分けされた地を耕すやつらの動きも軽やかだ。

 みんな初めての労働が楽しいのか、思いの外テキパキと動いてくれている。


「この分なら思ったより早く完成しそうだな」


 ふと気がつく。

 人間よりよっぽど勤労なんじゃないの、こいつら。それに、食べ物のために人間の領地を奪っていたのだとしたら、これで戦争も解決するんじゃないのか。


 おれは頭を振った。

 いかん、いかん。余計なことを考えるな。どのみち、ここの魔物どもは人間を殺りすぎた。おれは予定通りアシュタロトの弱点を探し、やつを暗殺して凱旋帰国するんだ。

 農業が気に入ったのなら、どうせ跡継ぎにもなれない気楽な第三王子の身だ。セラトニアに戻ってから畑でも作ればいい。

 そこにこいつらはいねえけどな……。

 少しだけこみ上げた胸の痛みを圧し殺し、おれは考え直す。

 余計な手間もなくてせいせいする、と。


「ハーイ、アルカン。採ってきたわよ」


 黒の翼を上下に動かし、リリンがゴイルの旦那やハーピー族を率いて、ふわりと空から降りてきた。布を幾重にも重ねて作られたスカートがふわりと舞い上がり、片手でそれを押さえながら静かに着地する。

 素晴らしい。魔物でさえなければパーフェクトな美脚だ。

 セラトニア城のメイドを全員合わせても、これほどの女にはならない。いったい何を喰って育ったら、こんな美しい魔物になるんだ。

 おれの視線に気づいたリリンが挑発的に笑う。


「……見たいの?」


 おれは咳払いを一つしてその言葉を黙殺し、リリンら翼ある魔物らが両手に持っていた籠の中身の確認を始めた。

 使えるものと使えないものは選別せねばなるまい。


「ご苦労。ふむ、山菜は強いから畑じゃなく荒れ地にでも植えかえるか。これは……でかしたぞ、リリン。ナスの苗だ。簡単で比較的早く収穫できる。キュウリも同時期だな」


 ん? 少々できすぎてないか?

 ふと視線を上げると、リリンがふいっとそっぽ向いた。


「……おまえ、人間の畑から盗んできたな?」

「何よ、仕方がないでしょう。そんなに都合よく山にあるわけないんだから」


 ベ~っと舌を出して、リリンがすねたような表情をした。

 ああ、いちいち可愛い。殺しづらくなるじゃないか。


「それに、収穫に支障が出るほどは盗んでいないわ。あたしは人間のこと結構好きだし」


 おれは目を丸くする。

 意外な言葉だった。魔物は、人間が歩くときに虫けらを気にしないのと同じく、移動時に邪魔であれば踏み潰す。その程度の認識だと思っていた。

 だが同時に、リリンがこの食料難という最大の危機に、人類から食料を根こそぎ奪って絶滅させるという選択肢ではなく、農業をと進言したことに納得がいった。

 リリンはおれを見つめたまま、その場に肉感的な足を伸ばしてペタリと座っている。

 おれ、本当にこいつらと殺し合えるんだろうか……。


「そっか」

「そうよ。だから人間の畑の端にあるのを、すこ~しだけ分けてもらったわ」


 実際にその通りなのだろう。

 有翼種ら全員の籠を集めても、畑一つが壊滅するほどの量じゃない。農家の方々には申し訳ないが、帰国したら詫びに行こう。

 葉野菜の芽を選り分け、種類を分類する。


「ホウレンソウ、コマツナ、ルッコラ……」


 気がつくと、おれとリリンを中心にして様々な魔物らが周囲を取り囲んでいた。普段大半がナマニクばかりだから野菜が珍しいのだろうか。


「……これはカボチャか。受粉は面倒だが収穫後も長持ちする野菜はありがたい。だが、時期が悪いな。植えるには少々遅すぎるか。あとは~……野生のダイコンか。さすがにひょろひょろだな~。あんまり食うとこなさそうだが」


 ガーゴイルのゴイルが、ハットを取って苦笑する。


「すまぬ、参謀殿。どのようなものが食えるのかわからず、多く採ってきてしまった」

「いや、ちゃんと食える。野生のダイコンは根が小さくても葉もうまいんだ。おまけに耕作地でなくても育つくらい生命力が強い。だから、ありがたく植えさせてもらうよ、ゴイルの旦那」


 男同士でだけ伝わるようなニヒルな笑みを浮かべ、ゴイルが葉巻を噛んだ。


「フ……」

「へへ」


 人差し指で鼻の下を擦り、おれは照れた笑みを返す。

 これが友達ってもんだろうか。セラトニア城のなかじゃ、自由なんてなかったからな。これまでのおれの友達といえば、勇者として旅に出てからの、遊び人と遊び人と全裸だけだ。

 ……まともなの一人もいねえ~……。

 ふと大根を掻き分けてゆくと、白くて色艶のあるものが一本混ざっていた。


「お、これは立派な――」


 柔らかい。


「……触りたいのなら、そう言ってくれればいいのに」


 リリンが少しだけ目を丸くして、おれに視線を向けていた。


「あ?」


 顔から首筋、服の上からでも主張する大きな胸から、細い腰部に視線をやり、最終的には細い大根と並べて投げ出されていた彼女の足に視線を落とす。

 思いっきりつかんでいた。

 この時点でおれはわかっていたんだ。わかってはいたのだが、なぜか軽く揉んでしまった。本能には逆らえなかったと言い訳しておこう。

 柔らかく、暖かく、とても滑らかだ。ずっと触っていたくなる。


「…………ねえ、アルカン」


 平時の声色で、リリンが半眼になっておれを睨む。


「そういうことは、誰もいないところでお願いできる?」

「お、おお……いや、なんていうか……その……」


 おれの謝罪の言葉よりも早く、なぜかアシュがリリンの横に座って両足を投げ出した。野生の大根と変わらない、とてもとても哀れな足だ。

 何事かと見てみれば、アシュは視線を逸らして鳴らない口笛を吹き始めた。


「ひゅ~……ぷしゅ~……」


 おれはアシュの脹ら脛と太ももをつかみ、関節を曲がらない方向に軽く曲げてみる。


「うぎゃああっ!?」


 アシュがもんどり打って倒れ込み、土の上をジタバタと転がった。


「何がしたいんだ、おまえは……」

「な、なぜだ参謀ッ!? アシュにも優しくしてよぉぉ!」

「優しく逆に曲げてやったじゃねえか」


 てめえは魔王化したときに、おれの全身の関節を折れるまで逆に曲げやがったクセに、何を言ってやがる――とは言えないのが悔しい。

 魔物たちが、一斉に笑い声を上げた。

 おれは頭を掻きながら、リリンに謝った。


「すまない、間違えた。……その……最初だけだが……」

「バカ正直」


 リリンは怒った様子もなく、指先ですっと金色の横髪を耳にかけ、静かに微笑む。


「次からは場所を考えて、ちゃんと言ってからにして、ね? 待ってるから」

「――!?」


 心臓が大きく鳴った。彼女は間違いなく純魔種だが、なんだかとっても天使だ。

 アシュがおれとリリンの間に顔を突っ込み、首を回して交互に見ているが、おれの眼中にはまるで入ってこなかった。


「言えば触ってもいいのか?」

「……あのね、参謀さん。みんなの前で、そんなことまであたしの口から言わせる気?」


 今度は少し怒ったように唇を尖らせる。


「そ、そうか、そうだな。すまない」

「ふふ、冗談よ」

「どこからどこまでが!?」


 リリンがスカートを伸ばして膝上まで隠し、肩をすくめる。


「さあ?」


 胸の奥が激しく疼く。おれはクルクル入れ替わるリリンの表情を見たくて、おれたちの間に挟まっていたアシュの顔面を両手で挟み込み、横に除けた。

 魔王、邪魔。


「うぎゃああっ!?」


 その際、アシュの首からコキャっと変な音がしたが、流血させなければ問題ないだろう。


「そんなことより参謀さん。作業を続けたら? 早く植えないと苗が萎れてしまうわよ」

「あ、そうだな」


 悶絶しているアシュの手を引いて、おれは立ち上がる。


「ほら、早く立て、アシュ。あんまり地面でごろごろしてたら服が汚れるぞ」

「う、うう……」


 少々手遅れなことを言って、おれは周囲に集った魔物どもを見回す。


「よし、じゃあ、ミノタウロスは引き続き石運び、ゴブリンは耕作、ウンディーネは全員分の水分補給と水撒きを頼む。有翼種は朝から飛び回らせてたから少し羽を休めていいぞ」

「ありがたい。石の肉体では、正直飛ぶのも一苦労でな」


 ゴイルが首を鳴らしながら日陰で石像化した。どうやらあれがガーゴイル族の眠り方らしい。

 純白の翼を持つ鳥頭ハーピー族が、一斉に飛び上がって魔王城の屋根へと移動する。彼女らは鳥類と同じく、休むときであっても止まり木に立ったままだ。


「他のやつらはウネができ次第、区画分けして作物の苗を植えるんだ。適当に撒くんじゃないぞー。――おいこらっ、そこの豚ども! 種芋を物欲しそうな目で見るんじゃない! 収穫できたらポテチプに加工してやるから我慢しろ!」


 魔物たちがそれぞれの役割へと散ってゆく。

 おれは振り返って、他のやつらには聞こえないように囁いた。


「リリンも休んでいいんだぞ?」


 リリンが首を少し傾けて微笑んだ。


「あたしはそれほど疲れていないから平気よ。純魔は見かけよりタフなの」


 純魔種。すなわち一体で一国を滅ぼす危険性のある、アークデーモンら上位の魔物のことだ。華奢な女の子に見えても、リリンは魔王種であるアシュに次ぐ危険因子だ。

 決して忘れてはいけないことなのに、おれは度々思い出すんだ。思い出すということは、忘れているってことだ。

 どうにも調子が狂う。


「そか。じゃあリリンには何をしてもら――」


 言葉が言い終わるより早く、ゴブ蔵が半泣きになっているアシュの手を引いて戻ってきた。


「どうした?」

「アニキィ、こいつマジなんとかなんないッスか!? マジあっしらが必死で作ったウネを~、魔王様が片っ端からマジぶっ壊してしまうんスよマジでぇ……」


 え、えええぇ~……。めんどくせえなぁ……。


「アシュだって、頑張ってるのにぃ~! バーカ、バカゴブー!」


 嗚咽混じりに、アシュがゴブ蔵に食ってかかった。身長はわずかにアシュの方が高いが、ゴブ蔵のほうがあきらかに強気だ。


「頑張ってる系とか、オニどうでもいい系なんスよ、魔王様よぉ? あんたがいたら、終わる作業もマジ終わんない系で~?」


 どうやら先ほど褒めたせいか、農業に関してはゴブリン族が台頭しているようだ。いや、そうでなくともアシュのカリスマは、砂漠で水滴を探すようなものだが。


「わかった、わかったから、落ち着けゴブ蔵。アシュにはちょっと休んでもらうから」

「マジそうしてもらえる系なら、あっしらな~んも言うことはないッスがねェ、ヨー!」


 痛烈な嫌味を言い捨てて、ゴブ蔵が畑へと戻ってゆく。


「アシュはまおーだぞー! 一番えらいんだ! アシュが頑張るって言ったら、アシュはやるもんねー! アシュだって、みんなの役に立てるもん!」


 地団駄を踏んで憤慨したまま、アシュが色々と突っ込みどころ満載なことを口走る。

 子供のケンカだが、はてさて、どうしたものか……。

 アシュの配置に迷っていると、リリンがおれの肩を指先で軽く突いた。


「参謀さん、確か土で作物を育てるには肥料が大切だったと思うのだけど」

「あ、ああ? まあ、そうだが……」

「せっかくだから魔王様と一緒に集めてきたら? それも農業には大切な役割でしょ? あたしが魔王様と一緒に行ってもいいんだけど、あたしも含めて他の誰にも農業知識はないから」

「む、大切なことならアシュが直々にそれをしてやらんこともないよ。行こ、アルカン」


 アシュが両手でおれの手を引っ張ると、リリンが唇に指をあて、金色の髪を風に揺らしながらウィンクをした。

 どうやらリリンは、この場を諫めるために気を利かせてくれたらしい。だが、目を離したら種芋を食い散らかしそうなやつとか、サボってしまいそうなやつとか、結構多いのが不安だ。

 オーク一族なんかは血走った目で種芋を片手に持って涎を流している。


「リリン、すまんがオークどもを率いて洞窟に行ってくれ。そこでバット・グアノという肥料を取ってきてほしい。洞窟内の生物の死骸や蝙蝠の体毛、糞なんかが化石化したものらしいんだが、現物はおれも見たことがない。もし見つからなかったら腐葉土でもいいから頼めるか?」

「仕方がないわね。ここにいさせたんじゃ、あいつら種芋食べちゃいそうだし」

「ええ! 肥料探しはアシュがやるのー!」


 アシュが両手両足をわちゃわちゃ動かして駄々をこねる。おれはアシュの頭に手を置いて、子供を諭すように言ってやった。


「リリンたちが探すのは土の栄養を足すための肥料だけど、アシュが探すのは作物を育てやすい土壌に改良するためのものだ。両方大事なんだ」


 リリンが苦笑いで言葉を継いだ。


「そうそう。だから魔王様はアルカンと少しゆっくりしてきなさいな」

「ゆっくりなんてしないもん! アシュは肥料いっぱい持ってくるんだからっ! どっちがいっぱい採れるか勝負だよ、リリン!」


 アシュがジタバタと四肢を動かしながら白髪を振って、リリンに噛みつく。

 しかしリリンは中腰でアシュに視線の高さを合わせ、子供に言い聞かせるように微笑みながら口を開けた。


「はいはい。それじゃあ、参謀さんのことはお願いするわね、魔王様。しっかりお手伝いするのよ?」

「あ、うん。アルカンのことは、このまおーたるアシュが見てるから任せるがいい!」


 まるで、かーちゃんとガキだ。

 アシュと二人か。普段なら絶対に拒絶したいところだが、これは暗殺のチャンスとなるかもしれない。


「すまんな、リリン。じゃあ、ここは頼んだぜ」

「ふふ、行ってらっしゃい」


 う~む。リリンのような女性にこうして見送られるのは悪くないな。


一人だけ無能がいました。

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