昏睡
ロジーナはゆっくりと目を開けた。
なんだかとても長い夢をみていたような気がする。
「ロジーナ」
声を聞いた瞬間、胸がギュッと締め付けられるように苦しくなった。
「師匠」
ロジーナはそう言ったつもりだったが、口から出たのは吐息だけだった。
「ロジーナ。私はここにいる」
クレメンスの顔を見つけ、ロジーナはなぜかとてもほっとした。
「心配いらない。私はずっとお前のそばにいる」
ロジーナの手を暖かい大きな手が包み込む。
「安心してゆっくり休みなさい」
ロジーナは言われるままに目を閉じた。
再びロジーナが目を覚ました時も、クレメンスがすぐそばにいた。
「師匠」
何かきいておかなければならないことが沢山あるような気がする。
ロジーナは一生懸命に記憶をたぐりよせた。
「案ずることはない、皆無事だ。火山活動も沈静化している」
ロジーナが問いかける前に、クレメンスがこたえた。
ロジーナのバラバラになった記憶がつながった。
そうだった。
私は火口に飛び込んだんだった。
「お前のおかげでな」
クレメンスの言葉にロジーナはにこっと笑った。
自分の行為が無駄にならなかったことが嬉しかった。
「ところでロジーナ。覚えているか?」
クレメンスの問いに、ロジーナは首をかしげた。
何かがあった気がする。
なぜか思い出せない。
何かがあったのは確かだ。
でも、思い出そうとすると、さらさらと砂のようにこぼれ落ちていく。
「すまない。私の思い違いのようだ。今はゆっくりと休みなさい」
ロジーナはクレメンスの言葉に従い、再び目を閉じた。