ロジーナ噴火口に現れる
<登場人物>
ロジーナ・・・世界でも1,2を争う魔力の持ち主。孤児。父はウィドゥセイト神、母はフィオナ。
クレメンス・・・魔術師協会の会長。ロジーナの師匠。
フィオナ・・・ロジーナの母親。ウィドゥセイト神の眷属。元人間。ロジーナを産んですぐに現世を離れることになった。
ウィドゥセイト神・・・神。冥界と夜の管理者。ロジーナの父親。常に銀色の光を身に纏っている。
カルロス・・・師範魔術師。クレメンスの弟子。ロジーナの兄弟子。
フランク・・・師範魔術師。クレメンスの部下
大きな山が突然火山活動をはじめた。
この山が噴火をすれば麓の街や村だけでなく遠方の首都にも影響が出るだろう。
とりあえずは麓に住む住人を避難させなくてはならない。
政府と魔術師協会は協力して住民を避難させることにした。
山は今にも噴火しそうな勢いだった。
魔術師協会は所属する高位の魔術師――師範魔術師を召集し、時間稼ぎをすることにした。師範魔術師たちは山の火口付近に集結し結界を張った。
住民の避難は思いのほか手間取っていた。火山活動はさらに激しくなり、集結した魔術師たちは時間稼ぎをするのが精一杯だった。
全ての住民の避難が完了した。
その報告をし、予てからの打ち合わせ通り、魔術師協会副会長のフランクは結界に参加していない魔術師たちとともに避難した。
噴火口には、結界を張っている師範魔術師たちだけが残された。
このまま最後のときまで結界を張り続けるか、それとも一か八かの賭けに出るか。どちらにしても絶望的な状況だった。それならば、一か八かの賭けに出よう。一人が時間稼ぎをし、その一瞬の隙に全員避難する。
噴火口にいる魔術師たちの意見は一致した。
問題は誰が犠牲になるかだった。みな、自分こそがと申し出て、一時は収拾がつかない状態になった。しかし、魔術師協会会長のクレメンスの「結界術を専門としている自分が時間稼ぎをするのが一番勝算があるのではないか」との提案に、意見がまとまりかけた。
その時だった。
突然ロジーナがその場に姿を現した。
ロジーナは技術的にはまだ未熟さが残ってはいるが、協会随一の桁外れの魔力の持ち主だ。
ロジーナは人と接することをあまり好まず、今まで協会に協力することはほとんどなかった。ロジーナは協会の意向に従わないとはいえ、協会に所属し、真っ向から対立する素振りはなかった。協会としてはロジーナの動きは静観していた。
そして、今回の緊急事態にもロジーナは協力するつもりはないようだった。
そんなロジーナが突然現れたのだ。
「ロジーナ、なぜこんなところに来たのだ」
ロジーナはクレメンスの問いにはこたえず、呆然と辺りをみまわしていていた。
ロジーナは野次馬根性で現場を見に来ただけだった。しかし、現場の想定以上の緊迫した状況に驚いていた。
住民の避難はそろそろ目処がつくだろう。しかし、ここの状況は最悪だった。山は結界を張らない状態であったなら、すでに噴火を起こしていただろう。それを無理矢理おさえこんでいる状態だ。結界を解除した瞬間に大噴火を起こすに違いない。
今、結界を維持している魔術師たちの避難する時間はない。
高い技能を持った彼らなら、数秒の時間があれば避難できるはずだ。しかしこの状況では、その数秒すらない。結界を維持しながら避難する準備をし、解除の瞬間に避難できるほどの余裕はない。
絶望的な状況にロジーナはしばらく放心状態だった。
「今すぐ避難しなさい」
師匠のクレメンスの言葉に、ロジーナはきょとんとしているように見えた。
「おいロジーナ、ぼーっとしてる場合じゃないぞ。ここは危ない。早く逃げろ」
ロジーナの兄弟子であるカルロスも大声で言った。
他の師範魔術師たちも、口々にロジーナに避難勧告をする。
ロジーナはそんな彼らを不思議そうにみまわすと、なにかを考え込むようにうつむいた。
「ロジーナ。早く避難しなさい」
クレメンスは語気を強める。
ロジーナは自分にできることはないか考えていた。
少しでも時間があれは彼らは自力で避難することができるだろう。
時間稼ぎをすればいい。それには……。
一つだけ方法を思いついた。どれだけ時間が稼げるかわからない。もしかしたらそれは無駄な行為になるかもしれない。しかし、今の自分にできることはそれだけだった。
ロジーナは顔を上げると、鋭いまなざしでじっと噴火口の中を見据えながら口を開いた。
「今から私が時間稼ぎをしてあげる。その間にみんな避難するのよ。私の努力を無駄にしたら許さない」
止める間もなく、ロジーナは魔力を解放し、シールドを張りながら噴火口に飛び込んだ。
結界への圧力が消えた。
魔術師たちは、その一瞬を無駄にしなかった。
一斉にその場から魔術師協会本部へと瞬間移動した。
ただ一人、クレメンスだけを除いては。