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こころ

 前半が特に印象的だった。先生のいったことば、「恋愛なんて、罪悪ですよ」ということばの衝撃の強さは強烈だった。今まで、こんな発想はしたことがなかったからだ。さすが、みんなに読み継がれる名作だけあって、心を打つ名文がひとつはあるものだ。

 この物語で、語り手は恋愛をしない。よって、罪はないといえる。そして、先生は恋愛をしている罪人である。物語の後半で、先生の恋愛がどんなものだったのかが語られる。それは、現在では、かなり時代錯誤な恋愛であると思われるが、好きなお嬢さんに言い寄る男にお嬢さんをとられないために、策略をめぐらしたのである。その言い寄る男とは、先生の親友なのにである。

 先生は、お嬢さんを直接口説くのではなく、お嬢さんの母親に頼みこむという方法によって、お嬢さんとの結婚をとりつける。それにより、お嬢さんを口説いていた親友の努力をすべて不意にして、見事、お嬢さんと結婚してしまうのである。これは、わたしが邪推するに、お嬢さんには先生に気があったことを母親はちゃんと見抜いていたためだと思われる。それくらいに、先生は恋愛を成就するのに謀略を放ったが、その奥底には、ちゃんと正道を行く相思相愛があったのである。わたしは、この物語を読んでいて、お嬢さんは、実に幸せになったと思えてならない。

 恋愛という罪を犯した先生は、罪を一生、背負って生きる在野の文系研究者である。わたしと似ている。ちがうのは、妻がいるかどうかである。これが、罪を犯したものと、犯さなかった者とのちがいであろう。

 先生は、例え罪を犯してお嬢さんを親友から奪ったとしても、決して、罪悪感ですぐに自殺したりはしない。お嬢さんにみずからの罪をずっと黙っていた。先生の妻はそれを見抜いていたのか、どうか。親友は、お嬢さんを奪われた心痛で自殺したというのに。

 先生は、お嬢さんが年老いるまで幸せに一緒に生きた。この長さが先生の優しさなのだと思う。そして、先生の優しさについに限界が来た。先生は、妻を親友から奪ったことの罪悪感から自殺するのである。

 妻が死ぬより早く。先生は今でいうニートである。彼女持ちのニートの死は、自殺なのだろうか。妻より先に死ぬのが、男のニートなのではないだろうか。

 これをもって、この物語の感想を終える。


おわり。


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