世界は密室でできている。
三十六歳のおれが書く「世界は密室でできている。」の読書感想文。
人は誰しもが閉塞感を抱えて生きている。人は誰しもが密室に閉じ込められている。ぼくらは世界に作られた密室から脱出しようとする逃亡者である。人の心を押しつぶす密室、それは、涼ちゃんを家出の旅に突き動かした家出衝動であったかもしれないし、友紀夫が修学旅行でみんなとはぐれて公園で鳩に餌をやっていた暇つぶしであったかもしれない。
この物語では、涼ちゃんの死によって作られた密室を壊そうと、次々と解放的な性格の人々の行動が起こる。不倫相手のおじさんを蹴り殺そうとしている椿は、修学旅行中の友紀夫を埼玉まで自動車にのせて連れて行ってしまう。友紀夫も読者も、唖然である。まさに、それこそ、密室から解放されようという感情の発露なのである。
そんな激情で動く椿に、妹の榎は心底、うちのめされており、愛のハンカチを渡した友紀夫に接吻する。それはそれは長い接吻であり、あまい口の溶けるようなキスである。そんな劇場的状況にあった友紀夫を友人ルンババが修学旅行中なのに、友紀夫の居所を突き止め、追いかけてくる。ルンババこと番場潤二郎による密室からの脱出である。
ルンババは探偵をやっていて、警察に協力していて、それは姉である涼ちゃんが死んだ密室の謎を解くためであった。ルンババは、父親に閉じ込められ、受験勉強をさせられる。中学生の頃から探偵の仕事に没頭していたルンババがいい大学に受かるわけもなく、ルンババは、かつて姉の涼ちゃんが家出しないために閉じ込められた部屋と同じ部屋に閉じ込められてしまう。ルンババは浪人しながら、東大京大でなければ許さないという頑固親父に閉じ込められ、勉強を強いられる。まさに、ぼくらを包み込む密室だ。密室とは、壁でも刑法でもなく、自由を信じたぼくたちを押し込める規律であり、模範的生徒たらんとする規範であり、それを強制的に強いる大人である。
ルンババは、十二歳の時、解けなかった姉である涼ちゃんの死んだ密室事件を解決して、みずから、密室を脱出することにより、自分の心の傷を解決するのである。
世界は密室でできている。ルンババはみんなの心の傷を、事件を解決することにより癒していく。友紀夫とルンババと榎を襲う密室殺人事件は、模範的生徒たらんとする規律に反抗したものたちの心の葛藤と解放である。
このはちゃめちゃな登場人物たちが愛おしい。ルンババは、事件を解決することで、模範的人物たらんとする規律と、それからの解放を願う犯人をやっつけていた。それが、最後、ルンババみずからが解放を願う犯人となって物語は終わるのである。
了




