姑獲鳥の夏
長すぎるので、読書感想文には向きません。
関口巽は妻帯者である。三十歳を超えた壮年である。そんな関口巽が、十年前の恋を思い返す物語である。
いや、この物語は何重にも伏線が張りめぐらされ、胎児連続殺人事件や、二年間出産しない妊婦や、狐憑きの家系などが語られる。しかし、その中で、もっともわたしの心を打ったのは、物語の主軸のひとつである間抜けな間抜けな関口くんの恋愛である。
間抜けな関口くんは当時、二十歳だった。まだ若い。そんな時、関口くんの友人が恋をする。久遠寺梗子という名家の娘に恋をしたのである。奥手な友人は、梗子への恋文を関口くんに代筆してもらうことを頼む。関口くんはそれを引き受け、自分で恋文を書く。
さらに、友人は、その恋文を想い人である梗子に届けてもらうことを頼む。関口くんは引き受ける。
ここで重要なのは、想い人久遠寺梗子には姉がいるということである。その名を涼子という。
関口くんはせっかく一生懸命書いた恋文を届ける相手をまちがえて、涼子に届けてしまうのである。これではいけない。とんでもない大失態だ。しかし、物語はさらに意外な展開を見せる。恋文を届けに行った関口くんは、友人の想い人であるはずの出会ったばかりの相手に、一目惚れしてしまうのである。
友人に頼まれて恋文を代筆し、友人に頼まれて恋文を代わりに届けに行った関口くんは、突然、物語の中心人物となってしまうのである。
関口くんは恋文を渡した。涼子はそれを読み、てっきり関口くんが求愛してきたのだと思い、承諾しようとした。その時、突然、訪れた衝動にかられ、関口くんは涼子を犯してしまうのである。
この体験は、関口くんの精神的外傷として、記憶から欠け落ちてしまう。
なんということだ。間抜けな間抜けな関口くんは、自分で書いた恋文を、自分で届けて、自分で口説いて、自分で性交に臨んだにも関わらず、それを罪と思って心を壊してしまうのである。
関口巽と久遠寺涼子は、十年前、両想いの恋人だった。ひと時の情事を交わした恋人だった。なのに、なぜ、関口くんは心を壊してしまったのか。
これが間抜けな間抜けな関口くんの二十歳の恋愛である。わたしは、そんな関口くんが大好きなのである。
了
この「姑獲鳥の夏」の感想文は、むかし読んだ京極夏彦ファンサイトの
文章を参考にしています。




