プロローグ 『おんなのこ、おとこのこ』
ガンガンと批評よろしくお願いします。
よろしければよろしければ。
ガールズラブなのか? どうなのか?
これは、どうカテゴライズされるんでしょうね。
こんな想いをしたことは、ないだろうか。
あなたが男の子なら、女の子になってみたい。女の子になって、自分の胸を揉んだり、色んな可愛い服を着たり、きゃっきゃうふふと、女の子仲間と、楽しい会話を繰り広げてみたい、と思ったことはないだろうか。
あなたが女の子なら、男の子になってみたい。男の子になって、色んな遊びをしてみたい、自分のゴツゴツした、男らしい身体に触れてみたい、無茶なイタズラをしてみたい、女の子同士の世知辛い人間関係から離れ、さぱっとした男社会に触れてみたい、そう思ったことはないだろうか。
実際にそうなったら、どうなるのかなあ。
そんな喜劇の物語。そして、叶わない恋に胸を焦がす、少女たちの物語。
「ふぁー……」
五月。そろそろ新しい環境にも慣れ、人々の気が緩み始めるステキな季節。
ここは、ちゅんちゅんと小鳥がさえずり、カーテンの隙間から、温かな陽光差し込むあたしの部屋。
ふんわりとした羽毛ベッドの上で、十五歳の高校生であるあたしこと、青木朱音はむくりと身体を起こす。
――昨日は、夜遅くまでテレビを見てた。
『女の子同士での恋愛なんて、ぜーったいにありえない、きもちわるーい、キャハハ』とさっぱり言い切った女子高生に、悲しみを覚えながら、枕を涙で濡らしながら眠ったものだ。
『男の子になりたい』。
女の子に生まれたら、きっと一度は思うことだろう。むしろ、一度も思ったことがない子が存在するのか。少なくとも、あたしの周りには一人もいなかった。
でも、彼らとは体格も違い、バカそうに無邪気そうに、男同士で楽しげに笑う、彼らの残酷な姿を、少女は傍で見つめることになる。
男の子と触れあいながら子供ながら、『男の子になる』という、その考えが達成できないことを知り、やがて、少女として生きてゆくことを決断する。
まあ、そんな小難しいことはどうでもいい。
あたしは、いわゆる『百合系女子』だ。注目すべきは、百合女子ではないことだ。
女の子が好き好き。であるけれど、まあ男の子も嫌いじゃない。
どっちでもいけるが、どっちかというと女の子が好きなだけだ。
男の子の友達も多いし、告白だって何回もされたことはある。
でも、愛してしまったのは、男の子じゃなかった。
まあ、そんなこともどうでもいいのだ。
叶わない夢を見続ける中で、やがて現実を見つめねばならない。
ぼうっとする頭の中で、小難しいことを考えたからか。
どうも、おかしな夢をまだ見てしまっているようだ。
あたしの髪の毛は、ふわりとした肩まで伸びた地毛の茶髪、身体は絹のようにすべすべで、胸も人並み以上にあるはずだし、街を歩けばそれなりの人間が振り向き、厄介な人間に声をかけられる。そんな程度の女の子。
であるはずなのだが。
サイズに余裕があるはずの、お気に入りのパジャマは、どこか窮屈で。
身体が違和感の塊になってしまったような、おかしな感覚がする。
「へええ……?」
ふと、自分の胸を見ると、割れた風船のようにしぼんでいた。
ふっくらとした胸は小さくなり、まるで男の子のようになっている。
小さくなった、なんて簡単に表現できるものではない。ぺったんこすぎる。
こんなの、悪い夢だ。
どうして一夜にして、あたしが貧乳にならなくてはならないのか。
こんなものは悪い夢に決まっている。まだ、悪い夢を見ているのだ。
だからこそ、あたしは頬を軽くつねってみる。
――痛い。夢じゃなかった。
この貧乳化事件は現実で、あたしの胸は実際にしぼんだのだ。
「どうして……?」
いや、胸だけじゃない。
声も、何となく自分のものではないような、そんな感覚がする。
どちらかというと、ソプラノ寄りの声色だったはず。しかし耳に入ってくるあたしの声は、オクターブ下がりのアルトボイス。
ぺったんこになっただけではなく、喉までやられてしまったのか。
しかし、なぜ、どうして。様々な疑問が、起き抜けの頭に浮かんでくる。
そこであたしは、一つの嫌な予感を頭に浮かべた。
もしかしたら、男の子になってしまったのでは?
アニメや小説、ゲームではよくあることだ。
朝起きたら、少女が少年になっていた。
逆も、しかり。
でも、それは創作物の中での話だ。
現実には決してありえない。
だからこそ性転換は、嗜好ジャンルの一つとして成立するのだ。
「ええー……」
まさか、まさかね。
恐る恐る、あたしは自らの下腹部に、おそるおそる手を移動させる。
何もないはずのそこには、男の子である揺るがぬ証拠。
……そのものが、存在していた。
今までそこにはなかったもの、少女が持つはずがないもの。
それがあった。
え?
まじで?
ありえなくない?
わけがわからない。
わけがわからないが、とりあえず叫んでおく。
というか、口が勝手に動いた。
「ええええええええ!」
この日から、物語は動き出した。
男の子になってしまった、何の変哲もない、百合系女子の日々が変わったのだ。