よるは、とけない
とわちゃんはお姫さまだ。
甘いものと編み物と、それから僕が好きで。ピーマンと、怖いことが嫌いだ。いつもお城の中で、笑っている。幸せそうに。
そんな君を、僕はただ愛することしかできない。
お仕事からかえってきたあなたと、ちょっぴり夜ふかしする時間がすきだった。
きょうは雪がふっているから、ホットチョコレートをいれてもらった。マグカップにどろりとしたそれを注いで、マシュマロをうかべる。チョコレートのほろ苦いにおいとあなたのあまい声が混ざっていた。
「とわちゃん、きょうは何したの」
「きょうはね」
わたしはぱたぱた、と走っていって、もってきた。
「てぶくろを編んだのよ」
じゃーん。といって、紺色のてぶくろを見せる。あなたはちょっと目をみひらいたあと、ふふ、とわらった。
「上手にできてるね」
「これはプレゼントなの」
わたしはちょっと恥ずかしくなって、てぶくろをあなたの胸にぎゅう、とおしつけた。あなたの目が細まる。
「大事にするね」
あなたのおおきな手がわたしの頭をなでた。髪、ぼさぼさだ。もっときれいにとかしておけばよかった。
「椎名くん、わたしプリンセスなのよ。プリンセスには敬意をはらうべきよ」
「そうでしたね、お姫さま」
あなたはひざまずいて目線をあわせてくれる。ほら。やっぱりわたしの王子さまだった。
子どもだからってからかわれているみたいだけれど、気にしない。
「王子さま、ちかいのキスをしなさい」
「はいはい」
あなたは心からうれしそうに、きれいな目をとじて、おでこにキスしてくれる。わたしもうれしくなって、ぽかぽかしながらそっと顔をあげた。あなたの前髪がくすぐったくて、くすくすわらう。
「椎名くん、ぜったいはなれないでよね?」
「うん。離れないよ」
「あしたの3時のおやつはなぁに?」
「いちごのドーナツだよ」
「はんぶんこしてくれる?」
「もちろん」
「やったぁ!」
わたしがとびはねて喜ぶときが、あなたは一番しあわせそうだ。
わたし、愛されてるんだ!だあいすきなひとに!
「椎名くん、だあいすきよ」
「うん、愛してるよ、とわちゃん」
「ぜったいぶったりしないでよね。わたし泣いてでていっちゃうわよ」
「────うん、大丈夫だよ」
「あ!椎名くん。チョコレートがさめちゃうわ」
「⋯⋯そうだね。飲んじゃおう」
あなたはまたいつもみたいにふにゃ、とわらった。
静かにかんぱいをして、いっしょにマグカップに口をつけた。
暖炉のなかにとびこんだみたいに、あたたかかった。
チョコレートの中のマシュマロはとっくに溶けてしまっていた。それにとわちゃんは気づかない。おいしいねぇと言って呑気に笑う。可愛いとわちゃん。小さなとわちゃん。
お姫様になりたいっていう願いを、やっと叶えたとわちゃん。
いつかの夢から、永遠に覚めないとわちゃん。
ほんとうはもう、とっくに大人になっているとわちゃん。
体だけがおおきくなっていくことにも、もちろん気づかないね。
執筆していてとても楽しかったです。
とわちゃんかわいいね。




