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episode3

「ひぃ、ふぅ……っ、九十八、九十九……百っ!」

自分の部屋の床に突っ伏した瞬間、肺が焼けるような熱さを帯び、心臓が耳元で警鐘を鳴らしていた。

視界の端で、無情なタイマーが「00:00:00」を指して消える。


[ ミッション:基礎体力底上げ(1日目)完了 ]

[ 報酬:スタミナドリンク(低級)を付与します ]


「はぁ、はぁ……ドリンクって、どこにあるのよ……」

掠れた声で呟くと、パサリ、とベッドの上に見たこともない青いラベルのペットボトルが出現した。

手品か何かを見ている気分だが、今は疑う余裕すらない。震える手でキャップを開け、一気に流し込む。

「……っ、まずい。何これ、味のないゼリーを薄めたみたいな……」

文句を言おうとしたその時、驚くべきことが起きた。

鉛のように重かった手足からスッと倦怠感が消え、バクバクといっていた鼓動が穏やかになっていく。

「……え、嘘。嘘でしょ。肩こりまで治ってるんだけど」

30歳の頃、どんなに高いマッサージ店に行っても取れなかった「蓄積された疲れ」が、一瞬で消え去った。

これが『システムの力』。このチートじみた恩恵がなければ、30歳の精神メンタルが先に音を上げていただろう。


翌朝、私は地元の公園の隅で、ダンスの基礎ステップを繰り返していた。

中身が30歳であることの最大の利点は、「正解の動き」を知っていることだ。

かつて、私は「なんとなく」踊っていた。

でも今は、どの角度で指先を伸ばせばカメラ映りがいいか、どのタイミングで首を回せば髪が綺麗に流れるか、理論で分かっている。


[ スキル発動:30歳の分析眼 ]

[ ダンスフォームの修正箇所を表示します ]


視界に「お手本」の残像が重なる。

私は自分の手足を、その残像に無理やり合わせにいった。

「――そこ! 膝の角度、あと5度深く!」

自分に喝を入れる。

17歳の瑞々しい筋肉が、私の意思に必死に応えようと悲鳴をあげる。

前世では気づかなかった。17歳の体は、こんなにも軽くて、こんなにも可能性に満ちていたのか。

「……今度こそ、無駄にはしない」


そして、約束の72時間が経過しようとしていた。

私は鏡の前で、一本の動画を撮り終えた。

『NEXT GATE』一次審査用の、自己紹介とダンス動画だ。

加工アプリなんていらない。

17歳の素材の良さに、30歳の「魅せ方」を乗せた。

少しだけ伏せた睫毛、カメラを一瞬だけ強く射抜く視線。

それは、酸いも甘いも噛み分けた大人にしかできない、「無垢を装った誘惑」だった。


[ 最終判定:Cランク(急成長中) ]

[ 備考:ビジュアルに『大人の色気』が微量付加されました ]


「よし。……送信」

スマホの送信ボタンを押した瞬間、部屋の空気が震えた気がした。


[ メインミッション:エントリー完了 ]

[ 報酬:スキル『カメラ目線の極意(初級)』を解放 ]


[ 警告:参加者10,000名。ここからは『弱肉強食』の世界です ]


窓の外では、街の大型ビジョンが『NEXT GATE』の開催を告げる特別番組を流している。

その中心には、私の宿敵――白鳥蘭が、現役女子高生ダンサーとして紹介されていた。

「待ってなさい、蘭。今度は私が、あんたを『その他大勢』にしてやるから」


ステータス更新

ボーカル:48 +3(基礎練習の成果)

ダンス:45 +7(フォーム改善)

ビジュアル +1(洗顔とマッサージの徹底)

知名度0 変化なし


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