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『リスタート・センター:30歳の私が、謎のモニターと共に頂点を目指すまで』  作者: 真白しろ


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20/23

episode20

「『可愛い』は、作れる」

それが、インフルエンサーとして何百万もの『いいね』を稼いできた私、夢乃アカリの絶対的な哲学だ。

前髪の隙間から覗く瞳の角度、唇の端を何ミリ上げるか、声をどの帯域で響かせれば一番「守ってあげたくなる」か。

私は自分の顔と体を、一つの精密機械のようにコントロールできる。だからこそ、この『NEXT GATE』でも、私がヒロインになるのは当然のことだと思っていた。

白鳥ランの存在は、まあいい。

彼女のような「天賦の才」を持つ孤高の天才は、サバイバル番組には絶対に必要だ。私が彼女に負けて涙を流せば、視聴者は判官贔屓で私に狂ったように投票する。最終的に「努力と愛嬌で天才を打ち破るヒロイン」、それが私の描いた完璧なシナリオだった。

……それなのに。

(なんなのよ、あのおばさん臭い女は……っ!)

鏡の前で完璧な笑顔を作りながら、私の内臓はドロドロとした嫉妬と焦燥で煮えくり返っていた。

神崎ミオ。

最初はただの「体力のないモブ」だと思っていた。なのに、気づけば私のシナリオを粉々に破壊し、あろうことか私を見下ろす2位の座にふんぞり返っている。

昨日までの彼女は、確かに『ただの足手まとい』だった。

『ディストピア・ロマンス』の高度な要求に体が追いつかず、床に這いつくばって息を切らしていた。私は心の底から嘲笑した。「口先だけのゲテモノ」だと。

でも、今日の彼女は違う。

たった一晩で、何が起きたというの?

「……スリー、フォー。アカリ、そこはもっとタメを作って」

ランの冷たい声で我に返る。

私たちは今、3人でサビのフォーメーションの確認をしていた。

私が鏡越しに視線をずらすと、斜め後ろに立つミオと目が合った。

ゾクッ、と。

背筋に冷たいものが走った。

今日のミオのダンスは、異常だ。

ランのように暴力的で正確なステップ。私のように、指先まで神経を行き渡らせた魅惑的な視線。

私たち二人の一番「美味しい」ところを、まるでスポンジで吸い取って、泥水に浸して叩きつけてきたような……歪で、恐ろしいまでの完成度。

(あり得ない。あんなの、人間の成長速度じゃない。……それに、何よあの目)

ミオの目は、虚ろだった。

激しいステップを踏んでいるのに、息一つ乱れていないように見える。いや、違う。よく見れば、彼女の指先は微かに痙攣し、限界を超えた筋肉が悲鳴を上げているのがわかる。

尋常じゃない痛みを抱えているはずなのに、彼女の瞳の奥にある『絶対に頂点をもぎ取る』という真っ黒な執念が、肉体の限界を強制的にねじ伏せているのだ。

「……私のバグを、愛して」

落ちサビ。

ミオがセンターに立ち、低く囁いた瞬間、練習室の空気が完全に彼女の「絶望」に支配された。

ランでさえ、息を呑んでミオを見つめている。

天才であるランが、初めて自分以外の存在に『恐怖』に近い感情を抱いているのが、隣にいる私には手に取るようにわかった。

(……ふざけないで)

私は、ギュッと拳を握りしめた。綺麗に整えたネイルが、手のひらに食い込む。

ランという光。ミオという影。

二人の怪物が、お互いを食い殺そうと牙を剥き出しにしている。

このままじゃ、私はただの「可愛いだけの前座」として、二人の戦いの噛ませ犬にされて終わってしまう。

(そんなの、絶対に許さない……!)

私はインフルエンサーだ。

他人の視線をコントロールすることにかけては、誰にも負けない。

この『ディストピア・ロマンス』は、狂った愛憎の歌。なら、今の私の腹の底で煮えたぎっている、この醜い嫉妬と屈辱を、そのままカメラにぶつけてやればいい。

「……アカリ。1番のAメロ、もう一回通すわよ」

ランの言葉に、私は「はーい!」といつものように高い声で返事をした。

しかし、曲が鳴り始めた瞬間、私は自分の中に被っていた『天使の皮』を、あえて半分だけ引き裂いた。

♪〜

カメラ(鏡)に向かって、私は笑いかけた。

いつもの、計算された可愛い笑顔じゃない。

目が全く笑っていない、自分より上の存在ランとミオを引きずり下ろしたくてたまらない、ドロドロとした執念を宿した『本物の狂気』の笑顔。

「――っ」

鏡越しにそれを見たランが、僅かに肩をビクッと震わせた。

ミオも、一瞬だけ目を見開いて私を見た。

(そうよ。私を置いていくな。私を見なさい!)

私は、自分が一番美しく、そして一番恐ろしく見える角度で、首を傾げた。

ただのあざとい女じゃない。私は、自分のプライドのためなら、天使の羽をもぎ取ってでも悪魔になれる。

ランの技術。ミオの異物感。そして、私の狂気。

お互いがお互いを憎み、警戒し、一切の妥協を許さない。

最悪で最高の、いびつなトライアングル。

(本番のステージで、全部かっさらってあげるわ。最後に笑うのは、この私よ)

私は、喉の奥で甘く、そして毒々しく嗤った。

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