人生リスタート
久しぶりに筆を取りました。
よろしくお願いします。
夜の駅前、降りしきる雨がアスファルトを黒く光らせていた。
30歳の神崎澪は、コンビニの袋を提げ、疲れ切った足取りで家路を急いでいた。ふと足を止めたのは、駅ビルの巨大なデジタルサイネージが鮮やかに切り替わったからだ。
画面の中で、一人の女性が眩いばかりの笑顔で高級化粧品のCMに出演している。
「……白鳥、蘭」
13年前、伝説のオーディション番組『NEXT GATE』。
当時17歳だった澪と蘭は、同じ最終審査のステージに立っていた。結果は、蘭がセンターでデビュー。澪は不合格。
「あの時、もし私が選ばれていたら。……もし、あきらめずに食らいついていたら。今頃あっち側にいたのは、私だったのかな」
独り言は虚しく雨音に消える。
今の澪は、事務のアルバイトを掛け持ちし、明日の家賃を心配する日々。夢の欠片も残っていない。
視線を落とし、横断歩道を渡り始めたその時だった。
視界の端から、雨に濡れた路面を切り裂くような強烈なハイビームが迫る。
鼓膜を震わせる急ブレーキの音。
(ああ、私、結局何にもなれないまま――)
衝撃は一瞬だった。
体が宙に浮き、視界が激しく回転し、やがて深い闇へと沈んでいった。
「……澪? 澪、いつまで寝てるの! 塾の時間でしょ!」
聞き覚えのある、少し高い声。
澪は勢いよく跳ね起きた。
「はっ……!? ここ、病院……?」
辺りを見回す。そこは無機質な病室ではなく、ポスターだらけの、散らかった、それでいて猛烈に懐かしい自分の部屋だった。
「え……? 嘘でしょ?」
鏡に駆け寄る。
そこに映っていたのは、目尻の小じわも、隠しきれないクマもない。
肌が発光しているかのようにツヤツヤで、瞳がキラキラと輝く、17歳の神崎澪だった。
「夢……? 事故に遭って、死ぬ前に見る夢にしてはリアルすぎる……」
自分の頬をつねる。痛い。
生ぬるい空気、洗いたての制服の匂い。すべてが本物だ。
その時、澪の視界にパチパチとノイズが走り、空間に半透明の青いモニターが浮かび上がった。
[ システムを起動します…… ]
[ ユーザー:神崎 澪(17)を確認 ]
[ コンディション:リスタート(二度目の人生) ]
「……何、これ。ホログラム?」
澪が呆然と指を伸ばすと、モニターの内容が詳細に切り替わった。
【現在のステータス】
ボーカル:45
C:まだ喉が子ども。技術不足。
ダンス:38
D:身体が硬い。リズム感が未熟。
ビジュアル:75
B+:磨けば光る。今がいちばんの旬。
メンタル:99
S:30年分の絶望と経験。不屈の精神。
知名度:0
一般人
[ メインミッション発生 ]
『13年前の雪辱を果たせ:オーディション番組「NEXT GATE」にエントリーせよ』
クリア報酬: スキル「カメラ目線の極意(初級)」、ファン獲得数ボーナス
失敗ペナルティ: 30歳の「冴えない日常」へ強制送還
「強制送還……? あの、コンビニ弁当を食べるだけの毎日に戻れってこと?」
澪は思わず、17歳の力強い拳を握りしめた。
あの惨めな30代をもう一度繰り返すなんて、死んでもごめんだ。
「神様かシステムか知らないけど……。いいわよ、乗ってやるわ」
鏡の中の自分を睨みつける。
中身は30歳。若さゆえの迷いも、根拠のない自信過剰もない。
あるのは、「あっち側」に行けなかった女の、執念だけだ。
「白鳥蘭……今度はあんたを、踏み台にさせてもらうから」
机の上に置かれた、懐かしの折りたたみ式携帯電話。
その画面には、数日後に締め切りを控えた『NEXT GATE 参加者募集中』のバナーが光っていた。
1日1本あげられたらな~と思っています




