9 どうして私が義妹をいじめていることに?
「公爵令嬢シェリールル様。あなたのような、身分を笠に着て義妹をいじめるような酷い女性は、王太子殿下の婚約者に相応しくないわ! 今すぐその立場を辞してくださいませ!」
エルデアールのその言葉に、さすがにシェリールルも黙っているわけにはいかなくなった。
にっこりと笑うと、目の前に突き出された扇子を、自らの扇子でくるりと回して下げさせる。
「まぁ、おかけになって?」
有無を言わさない響きを伴って、エルデアールに告げた。それには、その場で吠えていた他の令嬢も、そして今にも令嬢たちに噛みつきそうだった義妹のアンヌですら、借りてきた猫のようにしおらしく、そして小さくなってしまう。
「エルデアール様。まずあなたは、最初に理解しないといけないことがあるわ」
「り、理解?」
「ええ。アンヌは少なくともあなた方よりも身分的には上です。我が公爵家の血を引いていなくとも、侯爵家のお母上と伯爵家のお父上のお嬢様ですからね。そして、今は筆頭公爵家である我がマツィエ公爵家の次女として、正式に養女となっております」
シェリールルの説明に、その場の令嬢たちは顔を青くする。
(敵を招待するというのに、相手の情報を調べないのは大きなマイナスよ、エルデアール様)
「そ、そういうところが、身分を笠に着ていると言うのです」
エルデアールはぷるぷると震えながら、必死にシェリールルに食ってかかった。シェリールルの圧力に負けないように必死だが、すでに負けは見えている。
「まぁ! あなたはこの国の貴族なのでしょう? 我が国は国王を頂点とする身分制の国ですわ。身分の説明をして何が悪いのかしら? それにあなた、さっき挨拶をしたときにアンヌのことを、下に見ていたでしょう? あれは身分の問題ではないの?」
この言葉には、エルデアールも足の力が抜けそうになってしまう。
「え……見られ……あ、いえ……それはその……身分ではなく……」
しどろもどろに言葉を綴れば、シェリールルはそのつり上がった瞳を細くさせて、扇子を口元にかざす。
「ふふ。これまで会ったこともない、初対面の相手に、身分以外の部分で相手を下に見るだなんて、身分を笠に着る以上に失礼なことよね」
笑顔を一切崩さずに、同じトーンで話すシェリールルに、この場の令嬢が全員恐怖を感じていた。
(お……お義姉様、格好良い!)
──アンヌは、シェリールルに見惚れていたようだが。
「それにしても、どこをどうしたら私がアンヌをいじめているように見えたのかしらねぇ」
ほう、と吐くため息も、その所作が美しい。今度はアンヌも含めてこの場にいる全ての令嬢の心が一つになった。
……美しい。
「ねぇ、あなた。どうしてそう思われたの?」
最初に口火を切った子爵令嬢に、シェリールルが目線を向ける。つり上がった瞳で見られると、どうにも問い詰められているように感じるが、本人には一切そのつもりはない。
子爵令嬢は慌てて立ち上がり、シェリールルに向き合う。
「あ……あの……。アンヌ様にお話しになるときは厳しいお顔をされていて」
今にも消えそうな声で告げる子爵令嬢は、泣きたい気持ちで一杯だった。けれど、この中で一番立場の低い自分が泣くわけにはいかない。必死で涙をこらえている。
ちなみに、シェリールルがアンヌに話しかけたときに厳しい顔をしていたというのは、全くの誤解だ。シェリールルの顔がキツいので、笑みを浮かべなければ、そう見えるだけなのである。
(あら、泣くのを我慢しているの? この方なかなか根性があるじゃない。そうね、エルデアール様、いえグァミルア伯爵家と同じ派閥の令嬢たちだし──)
シェリールルの脳内では、今後の事がめまぐるしく組み立てられていた。けれど、その間彼女の瞳は、子爵令嬢をひたと見つめたままだ。
子爵令嬢は震え上がりながら、言葉を続ける。
「それにその──所作についても、事細かに注意をされていて……」
その言葉に、アンヌは得心がいった。
「なるほどっ!」
「アンヌ、言葉遣い」
「お義姉様、それです」
「そういうことね」
シェリールルとアンヌはにっこりと微笑みあう。
「あぁ、あなた、座って結構よ。エルデアール様も、どうぞおかけになって?」
扇子をパチリ、と閉じたシェリールルは、そうして皆に向かってこう言ったのだ。
「お茶会のマナー講習を行います」
明日から、毎朝7時10分に更新いたします




