8 グァミルア伯爵令嬢に期待してしまいますわ
すでにシェリールルは、彼女に王太子妃の座を渡す為のチェックに入っていた。婚約者を交代するということは、未来の王妃の交代をするということ。シェリールルとしては、王太子妃教育を始めて二年程度なので、そこは今の段階であれば、交代したあと十分に挽回できると思っている。
だが、もともと公爵令嬢としての、つまり高位貴族としての教育は幼いときから受けてきたシェリールルと、中位貴族のエルデアールは学んでいる教育が異なるのだ。そのギャップをどの程度本人がカバーできるのか。
(まぁ、それでも婚約者となれば努力してくれるわよね、きっと)
シェリールルは、自分が解放される為であれば、物事を楽天的に考えるようになった。この二年、王太子のくだらない嫉妬やわがままにも付き合いつつ、王太子妃教育を受けるという苦痛を受け続けてきたのだ。このくらい楽天的な方が、シェリールルにとっては良いのかもしれない。
シェリールルとアンヌは、他の参加者にも紹介され、挨拶を交わす。
他に招待されている令嬢は三名。いずれもグァミルア伯爵家と同じ派閥の令嬢で、同じく伯爵家、伯爵家、そして子爵家だ。
伯爵家が三人揃うことになるが、その中で一番家格が高いのがグァミルア伯爵家で、筆頭伯爵家とされている。伯爵家の令嬢でも、筆頭伯爵家であれば、王太子妃になることはそこまで難しくはないだろう。
実際、現在の王妃は伯爵家の出だ。
当たり障りのない会話を続けていると、不意にエルデアールが子爵家の令嬢に目配せをした。
(あら? 何か始まるのかしら)
事前にアンヌに『シュペラブ』のストーリーを聞いているシェリールルは、ワクワクが止まらない。
(王太子との婚約破棄というご褒美の前にも、楽しむことができる出来事があるだなんて、私の人生がつまらないままだと、もう嘆かなくて良いのね)
齢15歳にしてストレスマックスだった彼女は、父の再婚以来すっかり日々を楽しむことができていた。
「シェリールル様、アンヌ様が伯爵家のご出身で養女だからと言って、いじめるなんて酷いですわ」
「……は?」
子爵令嬢が言ったその言葉に、いち早く反応したのはシェリールルではなく、アンヌだった。
いつになく低い声を出し、子爵令嬢を睨め付ける。
「私が? お義姉様に? いじめられている?」
「アンヌ様! シェリールル様にいじめられているのに、そうやってかばおうとなさるなんて!」
「そうですわ! なんてお優しいの。それに引き換えシェリールル様は、身分が下の者が公爵家に入ったからといって、いじめるだなんて」
今度は伯爵令嬢その1と2が声を上げた。どちらがどちらかは、この際どうでも良い。
(この人たちは、一体なんの寸劇を始めたのかしら。もしかして、これも『シュペラブ』の脚本なの?)
王太子妃教育と公爵令嬢の教育で培った表情筋は、非常に良い働きをしていた。シェリールルは扇子を口元に運び、小さく首を傾げる。
のんきに様子を伺っているシェリールルとは対照的に、アンヌは今にも噛みつきそうな表情だ。
(あらあら、アンヌったらそんなに表情に出したらだめよ。あとで言わなくちゃね)
シェリールルはちらりとアンヌを見遣る。それを確認したのか、エルデアールが立ち上がり、扇子でシェリールルを指して口を開いた。
「公爵令嬢シェリールル様。あなたのような、身分を笠に着て義妹をいじめるような酷い女性は、王太子殿下の婚約者に相応しくないわ! 今すぐその立場を辞してくださいませ!」
次回更新は19:10の予定です




