7 グァミルア伯爵家の挨拶
大きくため息を吐きながら、首を振る。こんな仕草、今まで家の中でもなかなかすることができなかったけれど、今は継母も義妹のアンヌも、そんな彼女を歓迎してくれているのだ。
もちろん、父も双子の兄も、別段シェリールルに家の中でまで淑女でいろと強要したことはない。それでも、彼女としてはなかなか素直な自分を出すことは難しかった。
「ぜひとも、グァミルア伯爵令嬢には王太子の婚約者になっていただきたいものだわ。……そうよ! 今度のお茶会で、グァミルア伯爵令嬢と仲良くなって、王太子の婚約者の座を進めてみましょう。『シュペラブ』では、王太子が彼女の虜になってくれれば、私は婚約破棄が叶うのよね?」
生き生きとした表情で、婚約破棄を待ち望む義姉に、アンヌは自分にできることはなにかと考え始める。
「エルデアール・グァミルア伯爵令嬢のルートは、身分も伯爵令嬢ということで、そこまで難易度は高くなかったの。そのときに立ちはだかった悪役令嬢のお義姉様は、マナーがなっていないと言ってお茶を伯爵令嬢の頭からかけていましたね」
「頭から?! 紅茶は熱いじゃないの。そんなことをしたら、火傷しちゃうわよ」
「だから、王太子と伯爵令嬢がくっついたあと、断罪されるんです」
「なるほど……」
シェリールルは、アンヌの言葉に納得すると、ぽんと手を一つ叩いた。
「さすがに火傷をさせるのは、私も本意じゃないわ。火傷というのは酷い場合には命にだって関わるし、そうでなくとも、女性の肌に痕が残る可能性だってあるし」
うんうん、と頷くと、非常に良い笑顔を浮かべてアンヌに向かう。
「グァミルア伯爵令嬢が王太子と上手くいくように、私が邪魔をしなければそれで良いわね」
*
淡いピンク色のバラが咲き誇る庭は、ゆるやかな風が通り抜けて、とても気持ちが良い。
奥に見える建物が母屋なのだろう。白亜の建物は、いくつものエンタシスの柱が、美しい装飾にもなっていた。
「ようこそ、マツィエ公爵令嬢」
「エルデアール・グァミルア伯爵令嬢、お招きありがとうございます。シェリールル・マツィエにございます。こちらは義妹のアンヌ」
「アンヌ・マツィエです」
アンヌの紹介に、エルデアールはわずかに眉をひそめる。が、すぐにそれを隠し笑顔を貼り付けた。シェリールルはそれを見逃すことなく、微笑む。
(アンヌは公爵家の養女で血のつながりはないとはいえ、元々伯爵家の令嬢。母親は侯爵家。少なくとも、両親ともに伯爵家のグァミルア伯爵令嬢が下に見て良い相手ではないのだけれど……)
冷静に、エルデアールを観察しつつ、笑みを崩すことなく会話を続けた。
「マツィエがここには二人おります。どうぞ私のことはシェリールル、義妹のことはアンヌ、と」
「まぁ、未来の王太子妃になられる方に、畏れ多い」
「未来のことはわかりませんわ。それよりも、今はグァミルア伯爵令嬢とのお茶会を楽しめれば」
「──ええ、確かに。未来のことはわかりませんものね。では、お言葉に甘えて。私のことも、どうぞエルデアールと」
王太子妃教育で鍛えられたとびきりの笑みを浮かべ、それを返事の代わりにする。
その笑みを向けられたエルデアールはもちろんのこと、横にいたアンヌも、そして共にこの茶会に呼ばれたエルデアールの友人たちも、見惚れてしまう。
(エルデアール様ったら、うかつねぇ。どうして簡単に私の言葉に乗ってしまうのかしら。これは減点ね)




