51 男たちの計略
「首尾は?」
「コールリアル様、上々です」
ドルイトの言葉に、三人は頷く。
「では、僕とコールリアルはこのまま王城に戻ろう。この娘の睡眠薬が切れるのはどのくらいだ?」
「おそらく……半日ほどになるかと」
「だったら、間に合うかな。どう?」
ロット第二王子はドルイトの回答を聞いて、アスミュートを見る。
「辺境伯領の手前で、馬車ごと船に乗ってヘクター大公領と王都のギリギリの境で地上に戻るのが、一番早いでしょう」
「わかった。辺境伯にはアスミュートから?」
「ザキネア子爵領からの通行許可証を船に掛けておくので、問題ないかと」
その方法であれば、全て陸路で移動するときに比べて半日ほど早い。
今夜には王城に到着できるだろう。
「到着が夜になるのは都合がいいな」
コールリアルは目を細める。
「港の方は、しばらくアスに任せる」
「ああ。シェルと会えなくなるのは寂しいが、よろしく伝えてくれ」
「まぁ半年もあれば十分だろ。あっという間さ」
アスミュートとコールリアルは握手を交わし、二人をチルーマの乗る馬車へと見送った。
*
馬車が王城に到着したのは、その日の遅くだった。
ロット第二王子が視察先から持ち帰ったという様々な荷を、使用人たちが降ろしコールリアルの指示の元運んでいく。
多くの人が動くその中で、コールリアルがチルーマを抱き上げ上から黒い布を掛ける。
彼らを迎え入れる為の灯りは、ロット第二王子の事前の指示で抑えられていた。曰く「あまり明るくしても、夜闇の急襲があったときに、対応できないだろう?」。そう言われてしまうと、王城側としても強くは出られない。
仄暗い場所で黒い布を掛けられたチルーマは、その存在自体気付かれにくい。
コールリアルはロット第二王子より数歩あえて遅らせ、使用人たちの波に紛れて王城に入っていく。
途中、王城侍女とすれ違う。
「一時間後に動いてくれ」
コールリアルがすれ違いざまに小さく指示を出せば、侍女は王族と筆頭公爵家の嫡男への礼をする形で了承の意を示した。
そのままロット第二王子とコールリアルは城の奥、王族しか本来は入ることのできない地下通路へと向かった。
王族が使う裏通路だ。筆頭公爵家といえど、その通路に通常は入ることができないが、人目に付く場所での移動はできない。
「この通路のことは、あとで忘れて欲しい」
「万が一の時までは忘れておきますよ」
「そういうの、やめてよ……。僕はいい王様になるからさ」
反旗を翻す時までは忘れておこうというコールリアルの言葉に、ロット第二王子は苦笑いを浮かべた。
男の早足で数分過ぎると、ロット第二王子の住む南宮から王太子の住む東宮まで到着する。螺旋階段を三階分上がった通路をさらに移動し、いくつかある扉の一つを開いた。
「ここは兄上の部屋の二つ隣だ。部屋の中に扉があって、兄上の部屋まで中一つおいて繋がっている」
本来は王太子夫妻が使う寝室の一つである。
王太子妃の部屋は別にあるが、王太子妃夫妻が仲睦まじくいる為に別途設けられている部屋で、このままシェリールルとの婚約が進めば、最終的に彼女が使うことになる。
――当然、ロット第二王子もコールリアルもそのつもりはないのだが。
「ここの部屋に、この娘を囲ってくれたらいいな」
「兄上なら、しそうですけどね」
くすくすと笑いながら、コールリアルはソファへとチルーマを座らせた。
部屋の中は、小さな燭台が点り室内がうっすらと見えるようになっている。
チルーマから黒い布を外し、ドレスや髪を整え、手元にメッセージカードを持たせた。
「時間的には、そろそろ睡眠薬が切れる頃なので、部屋を出ましょう」
「この部屋なら、王族通路から様子が見れる。彼女がメッセージカードを確認するか、見届けないか?」
「……王太子夫妻の寝室を王族通路から確認できるようになっているのは、なかなか王族的ですね。シェルは絶対に嫁がせたくない」
正しく初夜を迎えるかを確認する、出歯亀ともいえる監視窓は、基本的に使われることはないが、監修として必ず作られている。はるか昔は、立会人の元に初夜を過ごしていたというのだらか、まだマシなのだろうか。
「僕は絶対にそんなことさせないけど……。まぁアスミュートとシェリールル義姉さまがうまくいくといいよね」
ロット第二王子は少しだけ苦そうな顔を浮かべつつ、コールリアルと共に再び王族通路へと出る。
すぐ横の小部屋に入ると、そこから中の様子がよく見えた。
「あ、気付いたみたいだよ」
部屋の中、ソファに座っていたチルーマの体がゆっくりと動き出す。
「……なに、ここ。アタシはドルイトとカフェで……え、まさか誘拐されたの? でもなんか、すごく高級そうな部屋だし」
仄暗い灯りの中、チルーマは周囲を見回す。
手元のメッセージカードに気付き、灯りの元へと走り寄っていった。
「え、何このドレス。すっごいかわいいし軽い! 高級なやつじゃん」
灯りの隣にあった姿見を見て、チルーマの声は急に明るくなった。
「え……っと。このあと……王太子殿下がいらっしゃるので……あなたの魅力を伝えられることを祈ってます――って!」
メッセージカードの後半になるほど、チルーマは口の端を震わせて笑みを浮かべる。
そこにはドルイトの文字などは当然ない。カード自体、公爵家の文字の綺麗な侍女に書かせたものだ。筆跡鑑定にかけられても、あとを追うことはできないだろう。
「ってことは、ここは王城かな。それとも、王太子が泊まるようなホテル? どっちにしろ、このチャンスをモノにすればいいのよね」
チルーマの瞳がギラリと光った。




