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継母と義妹に悪役令嬢と言われたので、しっかり務めたいと思います!  作者: 穴澤 空@4/11ドアマットヒロイン発売


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44 王太子の価値なんてありましたっけ

 ザキネア子爵領令息。

 それが今のアスミュートの立場だ。

 

 だが正式にいえば、アスミュート・ヘクターは、このドグラン王国唯一の大公家であるヘクター大公の孫であり、大公家の嫡男が爵位を継ぐまでに持つ従属爵位のザキネア子爵の嫡男でもあった。

 簡単にいえば、アスミュートは将来の大公という立場にある。


「シェルと王太子の婚約を終わらせる、って啖呵切ってたけど、策はあるのか?」


 公爵の執務室から出たコールリアルとアスミュートは、ビリヤード室で球を打ちながら話す。

 カン、と高い音が響く。


「シェルが、エルデアール伯爵令嬢とアメフォード侯爵令嬢を王城で王太子に会わせようとしている」

「へぇ。王太子の好みとしてはアメフォード侯爵令嬢の方かな」

「ああ。だが……あの二人はあくまで貴族令嬢としての動きしかできないだろう。それに、両家はそこそこ羽振りがいい」

「つまりあちらの陣営に、あの爵位の羽振りの良い家門を寄せたくないというわけだな」


 再び球を突く音が響いた。

 コールリアルの言葉に、アスミュートは頷く。


「そこで、昨日の騒ぎの女だよ」

「あっ、ファウルした」

「昨日の女を思い出して、手元が狂ったか」


 アスミュートはコールリアルがキューを引くのを見ながら笑う。


「その通りだな。あの下品で低俗な女をどうするっていうんだよ、アス」

「あれを、王太子に近付ける」


 8と書かれた数字が、アスミュートがコールしたポケットに落ちる。


「あのくらい常識を無視した女なら、王太子に致命傷を与えてくれるだろう」

 

 アルコールを落とした珈琲を飲み込むと、アスミュートはコールリアルを見て口の端を上げた。

 


   *


 

「お義姉様、美しいわぁ」


 アンヌはシェリールルが王城へ行く為の支度をしているところを見て、溜め息を吐く。


「今日はドレスアップしていないから、褒めるところはないでしょ」

「何を言ってるんです! そのシンプルなドレスから溢れ出る気品は、派手なドレスにも勝るものですから!」


 派手なドレスを着ていたとしても、きっとアンヌは同じように褒めていることだろう。

 シェリールルが身に纏うのは、シンプルなプリンセスラインの濃紺ドレスに、ウエストに金色の刺繍入りのリボンを巻いたものだ。


「アメフォード様やエルデアール様が目立つようにしないとね」


(多分……お義姉様が圧倒的美的勝者だと思いますが)


 アンヌがそう心の中で思ったことは、おそらくその場にいた侍女たちも思ったことだろう。

 今日はシェリールルが王城で小さな茶会を開く日だ。

 王太子の婚約者として定期的に開催するそれは、大抵は派閥の令嬢を招く小規模なものである。


「では行ってまいりますね」

「今日は俺が付き添う」

「お兄さま」


 アスミュートが今後シェリールルに正式に求婚する可能性が高まった為、できるだけ公の目に付く場面ではコールリアルがシェリールルの近くにいる方が良い。

 王太子を陥れるまでは慎重に、それがコールリアルとアスミュートが改めて出した結論だ。


「今日の茶会はアメフォード嬢とエルデアール嬢だったか?」

「はい。あとは、王太子殿下もお誘いしましたの」

「あれが来ると言ったのか?」

「ふふ。先にアメフォード様とエルデアール様がいらっしゃるとお伝えしましたからね」


 シェリールルとの婚約を不満に思っている王太子は、彼女と二人きりであれば絶対に参加しないことだろう。


「そもそもあれは、シェルの何が不満なんだろうな」

「さぁ……。昔から私に対して、態度も悪いですし存在が気に入らないのかもしれないですわね」


 現在の国王と公爵は従兄弟だ。つまり、コールリアルを含めた三人は再従兄弟(はとこ)であり、畢竟小さい頃から顔を会わせていた。公爵家の双子は見目も良く、頭も良いとは小さい頃からの評価だ。

 そうした存在とともにいると、王太子の不出来が目立ってしまったのかもしれない。それによる、不満と嫉妬心、劣等感か。

 もしくは、単純にシェリールルの見目が好みではなかったのかもしれない。

 あるいは――その両方なのか。


「婚約が相成って初めてのお茶会のときに、私の顔はキツいからおっとりとした女性が良いと言っていましたわね。あとは――そう、常に殿下を立てて、優秀でいながら殿下より目立たないようにと」


 当然そんなことは守る必要がないので、無視していたが。

 王太子がその役目を全うしていれば、ある程度目立たないように立ち回ることは可能だ。

 だが、彼は公務からできる限り逃げていた。


「さすがに、殿下の決済が必要なものを私に回してきたときには、断りましたけれど」

「そんなことされたのか?」

「ええ。官吏の皆さまは困ったでしょうけれど、私がして良いことではありませんからね」


 嫁いで王族の一員になったわけではないのだ。

 王族が受け持つ仕事は、王族がすべきである。それが今の生活を彼が享受する条件だと、シェリールルは考えていた。


「まぁそれを許したら、ずるずるといいように使われてしまうからな」

「そうでしょう? 私は私のやるべきことをするだけですからね」


 王太子妃になる者として必要な、前準備としての公務は当然手抜きなく行う。

 ――修道院の視察などもその一つだ。


「ますます王太子の存在価値が薄れてきたな」

「お兄さまったら。今更でしょう」


 くすくすと笑うシェリールルには、ロット第二王子の思惑はまだ伝えていない。

 伝えたら当然賛成するだろうが、あくまでも彼女は何も知らない状態で婚約を解消なり白紙なり破棄なりに進める方が、周囲への印象も良いだろうというのが、公爵とコールリアル、アスミュートの考えだった。


 王城についた馬車から降りると、コールリアルがエスコートして茶会の場所へと向かう。


「おや、今日は殿下の体調が良いようだぞ」


 コールリアルの目線の先には、すでに茶会の席に座っている王太子と、二人の令嬢の姿があった。

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