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継母と義妹に悪役令嬢と言われたので、しっかり務めたいと思います!  作者: 穴澤 空@4/11ドアマットヒロイン発売


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43 アスのお父さまとお祖父さまと

 開け放たれていた温室の入り口から顔を覗かせたのは、二人の話題の主、アスミュートだった。


「アスったら、私たちの会話を聞いてたの?」

「いや、今ちょうど通りかかってね。コールを探していたら、俺の名前が出たからさ」


 そう告げるアスミュートの手には、封筒が一通。


「お兄さまなら、お父さまの執務室にいると思うわ」

「閣下もいらっしゃるなら、ちょうど良いな。ありがとう」


 二人の会話を邪魔しないよう、アンヌはひたすら存在感を消している。

 それに気付いたアスミュートは、温室の中に足を踏み入れた。


「少し喉が渇いたな。シェルの紅茶、少しだけ分けてもらっても?」

「構わないけれど……新しく淹れさせるわよ」

「一口だけだからさ。不調法で悪い」


 そう言ってシェリールルの前にあるカップを手にして、口を潤す。

 目の前で繰り広げられるそれに、アンヌは口元が緩みっぱなしだ。


「ありがとう。ちょっとコールに会ってくるよ」


 温室を出る間際。

 アスミュートは振り返り、笑みを浮かべる。


「それと、俺はあの下品な子爵令嬢なんて興味ないからな」


 それだけ言い残すと、執務室へと向かっていった。


「……あれって全部聞かれてたってことですよね」

「アスはやっぱり、あの令嬢には興味がないんですって」


 二人の言葉が重なる。

 アンヌはシェリールルに満面の笑みを向けたのだった。



   *

 


 アスミュートは足早に、マツィエ公爵の執務室へと向かう。


「お、アスちょうどいいところに。今、人をやろうと思ってたところだ」


 執務室で親子で向かい合って座る公爵は、そう言うとコールリアルの隣にアスミュートを座らせた。


「先ほど、ロット殿下から内密に書面が届いた」


 公爵は手元の手紙を二人にも見せる。

 封緘は第二王子が密使に使うときのものだ。

 つまり公にはされていないが、わかる人には第二王子のものであるとわかる印。


「殿下はご決断されたか」


 コールリアルの言葉に、公爵が頷く。

 アスミュートも手紙に目を通し、表情を厳しくすると二人を見た。


「以前、隣国キャトタワ王国の第六王女殿下がお出でになったときに、我ら二人に殿下が尋ねられたことがあります」


 アスミュートの言葉に、公爵は先を促した。


「曰く、我ら二人に側近になるつもりはあるのか、と」


 公爵はその言葉に溜め息を漏らす。


「つまり兄である王太子を蹴落とすつもりであるということだな」


 手元の手紙にも、類似した言葉が書かれてあった。


「実は我が家にも同様の内容の手紙が」


 アスミュートは手にしていた封筒を机の上に広げた。 

 公爵とコールリアルがそれに目を走らせる。


「――この国の未来を憂い、在位中の我が父王の後継となるべく密かに決起す。憂国の臣たればその身を好機と顕すべし」


 コールリアルが読み上げる。

 端的に言えば、兄である王太子は王の器がないということだ。


「さて、シェルをどうするべきか」

 

 公爵が顎をさすりながら、目を細める。

 マツィエ公爵家がロット第二王子に与することになれば、王太子の婚約者であるシェリールルをその立場から救わねばならない。だが、この婚約は王家が望んだものでもある。


「――王命に対して、父上が喜んで拝命してしまいましたからね」


 コールリアルは、二年前の誕生日に父公爵が口にした言葉を思い出す。

 当然公爵は公爵で、愛娘であるシェリールルの幸せを考えての縁組みではあった。

 だが、それがここにきて足枷となる。


「マツィエ公爵」


 アスミュートが立ち上がった。

 そうして彼は扉の前まで下がると、片膝を突き公爵へと頭を下げる。


「シェルが……シェリールルが王太子の婚約者ではなくなりましたら、彼女に求婚する許可を頂けないでしょうか」


 公爵はその言葉に、目を丸くした。

 アスミュートとコールリアル、そしてシェリールルが仲が良いのは当然知っていたが、やりとりをつぶさに見ているわけではない。まさかアスミュートがシェリールルに恋情を抱いているなど、思ってもいなかったのだ。


「顔を上げてくれ、アス。いや――アスミュート殿」


 アスミュートはその場で、まっすぐに公爵を見据える。

 それは、好いた女の父親への許諾を求めるというよりは、決断を迫る強い意志を感じさせるものだった。


「いつから」

「もうずっと――そうですね。シェルと初めて会ったときに、一目惚れしましたから」

「……待て。二歳の頃だろう」

「そうですね。二歳の頃です」

「重いな」


 公爵は深々と息を吐く。

 これに早く気付いていれば、王太子ではなくアスミュートとの婚約を成立させたことだろう。


「先ほどコールが口にしたが、シェルと王太子の婚約は王命に近い」

「はい。ですので、うまく断れる状況を作りましょう」

「できるのか?」

「やってみせますよ」


 ニヤリと笑うアスミュートは、公爵が初めて見る顔だった。


「アスのお祖父様にそっくりになってきたな。その笑み」


 顔を天井に向け、公爵は額に手を添える。

 言われたアスミュートは、眉を軽く上げて笑った。


「父が跡を継ぎ、その後まで順番は回ってきませんが、それでも俺は確実に祖父の血を継いでいますからね」

「アスの父君は優しい方だ。君は隔世遺伝が強いのではないか」

「だとしたら、それはそれで嬉しいですね。シェルを守れる力が強いようなものですから」


 今度はいつもの笑みを浮かべた。

 公爵はアスミュートの祖父を思い浮かべる。

 計略に長けた、力のある男だ。

 そろそろアスミュートの父親が今の地位を息子――アスミュートへと譲り、爵位を交代するだろう。


「なんなら、ロット殿下がうまいこと王太子になるタイミングで、一足飛びに君が爵位を受け継ぐ方がいいのかもな」


 穏やかで、優しいアスミュートの父親を思い浮かべそう口にする。

 アスミュートは小さく肩を上げて、首を傾げた。


「もしもそれが、俺がシェルを口説く条件の一つであればそうしますよ」

「そうなれば、ロット殿下の地位は盤石になるだろうな――未来の大公閣下よ」


 公爵はそう言って、アスミュートの言葉を否定しなかった。

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