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継母と義妹に悪役令嬢と言われたので、しっかり務めたいと思います!  作者: 穴澤 空@4/11ドアマットヒロイン発売


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41/61

41 この場でそれはよろしくないわ

 シェリールルの放った一言で、チルーマは動きを止める。

 それを確認すると、ゆるりと動かした指先から扇子が一気に広がった。


「誰ぞ、フェシャレル子爵をお呼びください」


 チルーマを視線一つで制しながらシェリールルが口にすれば、すぐにコールリアルが動く。

 公爵家の嫡男であれば、子爵本人も言うことを聞くだろう。


「チルーマ嬢。しばらく口を閉ざしていらしてね」

「な……! あ……」


 反抗したくとも、シェリールルの威圧の前にチルーマは言葉が続けられない。

 シェリールルの表情は凪のように穏やかなのに、その視線だけはまるで氷雪を駆ける一筋の裂け目のように鋭い。


「シェル。こちらがフェシャレル子爵だ」


 兄であるコールリアルが連れてきたチルーマの父フェシャレル子爵は、いかにも貴族然とした髭と髪型の男だった。

 公爵家の嫡男に呼ばれた先にいたのが王太子の婚約者。そしてその目の前には自分たちが甘やかして育てた末娘が立ち尽くしているのだ。彼は即座に状況を判断する。


「……我が娘、チルーマが何か不敬を働いたのでしょうか」

「パパ、違うわ。アタシは」

「お前は黙っていなさい」


 いつもは蜂蜜のようにどろどろに甘い父親が、それらを湯で一気に溶かしたように厳しく言い放つ。

 チルーマは口元を大きく引き結び、すぐにシェリールルへと視線を向けた。ギラリと光るその瞳は、先ほどまでのシェリールルの威圧に負けていたものとは違う。


「パパにまで何かをしたの?! やっぱり悪役令嬢の」

「フェシャレル子爵。あなたの家のお子様は何人でしたかしら」


 チルーマの言葉を無視してシェリールルは、口元に笑みを浮かべてそう尋ねる。

 いかに成金子爵家の当主であろうとも、彼は生まれたときから子爵家の跡取りとして貴族の教育を受けてきた。

 目の前に広がるこの状況に、シェリールルの言葉の意味はすぐに理解できてしまう。


「六男六女……です」


 本来は六男七女。七番目の末娘がチルーマだ。


「そう、良かったわ。私の前にいる令嬢が、貴族令嬢にあるまじき行動をなさっていてね。もしもフェシャレル子爵家のご令嬢だったら、一族連座で不敬罪になるところでしたの」


 チルーマは「王太子の婚約者として相応しくない」という、決定的な不敬罪を人前でしなかったものの、それ以前の発言が十二分に筆頭公爵家の令嬢に対しても、王太子の婚約者に対しても不敬であった。


(こんなに大勢の前じゃなければねぇ。少人数のお茶会なら見逃してあげられたけれど)


 シェリールルは心の中で溜め息を吐く。

 王太子の婚約者として相応しくないということを、この国外からの客も多数いる外交の夜会で口にすることは、ひいては王家への不信という形に繋がる。そうなれば、ことはチルーマ一人の問題にはならないのだ。

 だが。


「こちらのご令嬢、行動からしてどうやら貴族教育を受けていない、平民の方のようね。もしもフェシャレル子爵が宜しければ、養子として引き取って、教育を受けさせていただけないかしら」


 あくまでもチルーマの行動は、夜会に紛れ込んでしまった平民のやらかしであり、それには目を瞑るという形をとる。

 チルーマはフェシャレル子爵の実子ではあるが、一度貴族籍を抜いた後養女として再編入することで、今回のことを見逃そうというのだ。


「は、はい。それではこちらの娘を、今後我が家で引き取り、貴族教育をしっかりと受けさせます」

「そう。それは良かったわ」

「パパ! アタシはパパの実の」

「フェシャレル子爵。あちらに部屋を用意したので、()()()()()()()()()()()()チルーマ嬢に、よくよく言い聞かせてくれ」


 コールリアルがフェシャレル子爵を誘導する。子爵はチルーマがこれ以上余計な事を言わないように手を引くと、即座にコールリアルに付き従った。


「おかしいわ。悪役令嬢の兄がこんなにもシェリールルに協力的だなんて。やっぱりあいつも転生者なんだわ」


 子爵に手を引かれながらもブツブツと口にするチルーマに、コールリアルが冷たい目を向ける。


「おい。シェルが君を止めなかったら、一族連座で両親父母親族全員処刑されててもおかしくなかったんだぞ」


 その言葉に、チルーマは足を止めた。


「なによそれ。これは全年齢だから、処刑エンドなんてないはずよ」

「君が何を言ってるのか知らないが、他国の賓客の前で王家の決定に異議を唱えるというのは、そういうことなんだ。しかもシェルは筆頭公爵家の令嬢である準王族だぞ。それまでの発言だけでも十分に不敬罪が適用される」


 チルーマは眉を寄せ、口を引き結んだ。

 けして理解して、納得している顔とは言えない。


「今はもういいわ。ドルイトは残念だったけど、別に商家だしね。このあともっと他の攻略対象を落としてやるから」

「チルーマ! 奥の部屋にいこう。きちんと話をしよう」

「……子爵。次はないと思ってくれたまえ」

 

 コールリアルはそう告げると、別室までチルーマを監視するために付き添う。

 シェリールルのエスコートをしていたコールリアルが一時的に席を外すので、すぐにアスミュートがその隣に並んだ。

 退室していくときにチルーマはそれを目の端で捕えると、口の端を僅かに上げたのだった。

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