38 私をお呼びで?
「まぁ! ミスト卿。お久しぶりでございますわ。ドルイトも、随分と立派になって……」
「この度は、招待状も融通して頂き、誠にありがとうございます。ほら、ドルイト」
「シェリールル様、お久しぶりでございます」
教会の児童院から引き取ったドルイトは、現在養子になったミスト家から、授業を学ぶ為にマツィエ公爵邸に通っている。だが、公爵邸は広く、またシェリールルも王城へ王太子妃教育を受けに行く為、会うことはほとんどなかった。
「ドルイト、とても素敵な紳士になったわね!」
そう言ってシェリールルは彼の両手を取る。その仕草に、面白くないのはもちろんアスミュートとコールリアルだ。特にアスミュートは、ドルイトを児童院から引き取る現場にいて、ひょろひょろガリガリの少年だった彼を見ている。
「シェリールル様、今日も大変お美しく」
自らの手を取ったシェリールルの白く柔らかなその指先に、敬愛のキスを落とす。
「まぁ! すっかり仕草も様になって。たった二ヶ月だというのに……」
「シェリールル様にお会いしたときに、恥ずかしくない自分でいたくて」
言いながら、ちらりとアスミュートを見る。
「あいつ……!」
「落ち着けよ、アス」
明らかにアスミュートを煽っている瞳だった。ドルイトが、シェリールルのことを異性として大切に思っていると言うことが、それだけでわかる。考えてみれば当然だ。底辺中の底辺にいた自分を救い出し、学を授け、それなりの身分を与えてくれた。それもとびきりの美女が、だ。
「愛さないわけないんだよな……」
「ん? なんだ、アス。あいつのことか?」
「ああ。どう考えても、シェルの事を女神として崇拝して、かつ愛するだろう?」
「それはその通りだな」
この間、アンヌはシェリールルとドルイトが楽しく会話をしている様子も、男二人──特にアスミュートの様子を伺うことも、両方せねばならなくて、とても忙しかった。
(ああ、お義姉様。本当に素晴らしいわ! でも私、このパーティはこれだけで終らない気がするのよ)
アンヌの勘は当たる。
ホールは楽団が、誰もが踊りやすいワルツをゆっくりと流していた。
中央に位置するダンスホールでは、幾人もの男女がゆったりとしたテンポでワルツを楽しむ。その周りでは、多くの国の大使や各国の事業に関係する人々が、語らい、一部では商談をしている。
そんな、夜会の中。
「シェリールル・マツィエ公爵令嬢! この大悪党! 犯罪者! あなたを訴えるわ!」
真っ赤なドレスに身を包んだ、赤毛に近いピンク色の髪の毛をツインテールに結んだ少女が、シェリールルを指さし、大きな声で叫んだのだった。




