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継母と義妹に悪役令嬢と言われたので、しっかり務めたいと思います!  作者: 穴澤 空@4/11ドアマットヒロイン発売


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34 ドルイトの物語だそうですわ

 シェリールルの連絡により公爵家の馬車が修道院に走り、取り急ぎドルイトは使用人により公爵邸へと向かう。そのドルイトが風呂に入れられ、使用人の子どもが着るお仕着せに袖を通した頃、王城からシェリールルが帰ってきた。


 玄関ホールで彼女を迎え入れたアンヌは、すぐさまシェリールルに件の冒頭の言葉を継げたのだった。


「え、えぇ?! だって……彼は貴族ではないわよ? あ! もしかして実は貴族の落とし胤だったと」

「違うわ。ドルイトは商家の養子になるの」


 不意に声が聞こえたかと思えば、継母のレジェスが顔を出す。

 

「お継母様」

「ほらほら、二人とも玄関ホールじゃなくて応接室(ドローイングルーム)に行きましょう?」


 アンヌと共に前世で乙女ゲーム『シュペラブ』をプレイしていた継母のレジェスは、二人を奥の部屋に送り出すと、侍女にコーヒーゼリーを持ってくるように指示した。


「あっ。アスミュート様のところのコーヒーゼリーだ!」

「アンヌは本当に、コーヒーゼリーが好きよね。ねぇ、アスと結婚したら食べ放題よ?」


 言いながら、シェリールルは少しだけ胸に違和感を感じる。小さく小首を傾げる彼女に、レジェスはすぐに気付いた。


「シェル、どうしたの?」

「なんだか、胸がチクリとして」


 その言葉に、レジェスもアンヌも顔を見合わせ、微笑む。


「お義姉様、それは良い兆しなのです。その違和感を覚えておいてくださいね。もしまたそういうことがあれば、私に教えて!」

「ええ。わかったわ。……なにか病気? でも良い兆し、なのよね?」


 二人は微笑ましいものを見る瞳で、うんうん、と頷いた。


「あ! それで、ドルイトが攻略対象者っていうのは」


 シェリールルの問いかけに、アンヌはコーヒーゼリーを頬張りながら口を開く。

 

「そうそう。彼は孤児院にいたんでしょ?」

「正確には、教会児童院ね」

「うん、まぁそんな感じ。それで、ヒロインの子爵令嬢が教会で迷子になったときに、ドルイトに出会うの」


 教会から教会児童院は、そこまで近いわけではない。事実、シェリールルたちは移動に簡易的な馬車を使うか尋ねられた程だ。歩けない距離でもないのと、視察ということもあり断ったが、王妃たちは使っているらしい。


「あの教会と教会児童院の間で、迷う場所ってあったかしら」


 教会の中であれば多少迷いもするだろうが、教会を一歩出たら長い一本の通路か、側道と広い畑だ。


「それはまぁ、ゲームだからね」

「だったら、最初から迷いやすそうな建物の設定にすれば良いのにねぇ」


 すっかりゲームのことを理解してしまっているシェリールルは、当時多くのユーザーが思っていたことを口にした。ゲーム中はさして気にならなかったのだが、設定資料集に出てきた教会の見取り図で、ユーザーからのツッコミを受けることになってしまったのだ。


「因みにそのヒロインの子爵家は成金でね」

「なりきん」

「貧乏子爵家の借金の肩代わりに、娘を嫁に差しだして乗っ取り、ってやつ」


 困窮していた子爵家は、爵位返還も考えていた。そこへ、ヒロインの祖父にあたる男が借金の肩代わりと交換で、娘の婚姻を約束させたのだ。ヒロインはその子どもにあたる。


 幸いにも、その子爵家の嫡男と娘の間には、六男七女という多数の子どもが生まれた。ヒロインはそんな家族の末っ子で、かなり甘やかされて育ったという。ヒロインの名前は、チルーマ・フェシャレル子爵令嬢。


「まあそんなわけでね。彼女は割と自由にさせて貰っているからか、ドルイトに一目惚れした後、とある商家に彼を養子に入れるのよ」

「ドルイトを?」

「そう」

「商家に?」

「そう」


 シェリールルは少しだけ考える。あのとき、ドルイトが口にした言葉は「権力と金」だった。もしかしたら、『シュペラブ』の商家の養子になることへの、布石だったのかもしれない。


「でも、なぜ子爵家の娘であるヒロインが、そんなことをできたの?」

「その商家は隣国のキャトタワ王国から流れてきた、小さな商家だったの。それで、子爵家が後ろ盾になる代わりに、という」


 そうして、ヒロインが彼を攻略するときに立ちはだかるのが、やはりシェリールルだという。


「……どうして私が、商家の養子とヒロインの恋を邪魔するのかしら」

「その疑問はごもっともですわ」


 二つ目のコーヒーゼリーに手を延ばすアンヌに代わり、今度はレジェスが口を開いた。


「ゲームのシェルはドルイトの、身分を無視した口調や態度に腹を立てるのよね。このヒロインはドルイトだけではなく、他の攻略者──特に王太子やその側近も狙って、逆ハーエンドのタイプだったから、無礼なヒロインと無礼な攻略対象者、ということで、徹底的な攻撃をするの」


 ゲームの話を何度聞いても、シェリールルには不思議に思うことがある。この身分社会で暮らしていて、どうして身分を無視した行動ができるのか。


「ところでその逆ハーエンドとは」

「ああ! 逆ハーエンドはまだ教えてなかったわね!」


 嬉しそうな継母に、「あ、これは長くなるな」そう直感したシェリールルだった。


「……つまり、一夫一婦制の我が国でありながら、多くの男性と関係をもったまま、王妃まで上り詰める、それが逆ハーエンドというものなのね」

「このゲームにおいては、そうね」


レジェスはにこにこと笑いながら、そう答える。


(お継母様はこの、逆ハーエンドを狙うのが好きだったのね。まぁ、架空の世界なら、ね)


 そう。あくまでゲームの中でなら、という話だ。実際にこの世界でそれをされたら、たまったものではない。

 そしてもう一つ。


「それで、私がヒロインと商家の養子となったドルイトに攻撃をしかけたら、どうなったの?」


 つるり、とコーヒーゼリーの最後の一匙を舌の上に流し込んだ後、アンヌはシェリールルに言葉を返す。


「成金子爵家のバックアップの元、その商家は王都イチの商会になってたの。それで、マツィエ公爵家には品物を卸さない、と宣言してしまうのよ」

「……ふぅん。なかなか面白いじゃないの」


 シェリールルは口の端をゆっくりと上げていく。そうして、コーヒーゼリーと共に出されていた果実水を飲み込むと、立ち上がった。

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