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継母と義妹に悪役令嬢と言われたので、しっかり務めたいと思います!  作者: 穴澤 空@4/11ドアマットヒロイン発売


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30 修道院へまいりましょう

 その言葉に、アスミュートはシェリールルを強く引き寄せ、踊りにかこつけ抱きしめる。


「ちょっ! アス?!」

「なんでだよ。なんでシェルが、修道院なんかに……」

「なんかに、なんて言わない! 私が望んだのよ!」

「望っ……。どうして!」

 

「ええ、でも王太子妃教育の一環としてどこが良いと聞かれたから……」

「え?」

「え?」


 音楽が終る。皆の足も止る。そして、この二人のやり取りも止った。

 ゆっくりと体が離れる。


「えぇと……。修道院に行くのは、もしかして公務の一環?」

「そうだけど?」


 はぁぁ、と大きなため息を吐くと、アスミュートはその場にしゃがみ込んでしまった。その間に、次の曲が始まる。


「あぁほら! 音楽が始まったわ。疲れたのなら、輪の外にでましょう?」


 ぐい、と両手でアスミュートの片腕を引っ張るが、シェリールルのひ弱な腕では、剣士でもあるアスミュートの体などびくともしない。


「うごか、なぁい!」

「っ、ふ、くくく」


 その様があまりにも可愛いと思ったのか。アスミュートは、顔を横に向けて笑いをかみ殺す。──殺し切れていないが。


「ん、もう! 笑ってないで、早く動いてよぉ」


 そんな二人を、領民は微笑ましく見守っている。

 小さな頃から、兄妹と共に遊び回っていたアスミュートのことも、領民たちは好ましく思い、領主一家の一人として扱っていた。 そう、まるで自分たちの息子や孫のように、大切に慈しんでいる。


「ごめんごめん! 必死になるシェルが可愛くて」


 ようやく立ち上がったアスミュートは、自らを引っ張る彼女の手を引き寄せた。近付いたシェリールルの髪をそっと撫でる。


「皆の踊りの邪魔になったな。すまない」


 周りの領民たちにそう告げれば、皆は笑顔で「喧嘩はほどほどにな」「良い祭りの夜を!」そう口々に返してくれた。



   *



 このドグラン王国には、各領地ごとに男女それぞれの修道院がある。それらの総本山となる教会と修道院が、王都に存在していた。


「マツィエ公爵令嬢、到着致しました」


 王家のキラキラと輝く馬車が、真っ白で飾り気のない質実剛健な建物の前で止まる。妙なアンバランスさに、シェリールルは笑ってしまいそうになった。


「ありがとう」


 すました声で返し、下車の態勢に入る。開いた扉の先で手を差し出す騎士を見て、優雅に添えた手が一瞬動きを止めた。


「……ザキネア子爵領令息。何故あなたがエスコートを?」

「こちらの修道院には、来週ロット第二王子殿下もおいでになることが決まりまして。下見を兼ねて、本日マツィエ公爵令嬢の護衛を」

「なるほど」


 再びとりすました顔で笑みを浮かべ、馬車を降りる。が、内心は目を何度もパチパチと見開くが如くに驚いていた。


(先に言っておいてくれれば良いのに! アスったら私を驚かそうとしたのね。こんなに多くの方がいる前で、王太子の婚約者の仮面を崩せるわけないのに! もう……)


 修道院の中を案内するのは、修道院長でもあり当代一の聖女とも謳われているホワテリ・デュラー女史。デュラー家といえば、薬学研究の第一人者を多く輩出している家でもあり、かつ同様に聖職者もこの家門の出自が多い。


 すでに70代にはなっているだろうホワテリは、元は薬学研究をしていたが、ある日何かに導かれるかのように聖職者の道に入った。そうして病院を兼ねてもいる教会の修道院で、培ってきた薬学の知識を生かし患者を救ってきた。


 総本山と言われている場所なだけあって、修道院の規模も大きい。

 中央に教会を挟み、左右に男性用の修道院、女性用の修道院が敷地の端と端に建っている。


(場合によっては、王太子に断罪された後、ここに入れられるかもしれないのよね。もちろんそうならないように、手は打っていくけれど、最悪のことを考えて、居心地が良いように変えないと。その為に視察の場所として修道院を選んだのだし)


 視察先に修道院を選ぶと、慈悲深い、優しいなどと王妃や王妃の侍女たちに言われたが、実情はこういうことであった。だが、内心がどうであれ、建前がどうであれ、実際に動くことが一番なのだ。


(それにしても、王妃殿下もここへは視察に来ているはずなのに、どうして私を慈悲深いだのなんだの、言い出したのかしらね)

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