3 悪役令嬢をしっかりと勤めたいと思いますの!
シェリールルは喜びのあまり、立ち上がりくるりとその場で一回転した。
「淑女らしくなくてごめんなさい。でも、あまりにも嬉しくて」
「シェリールル様、良いのですよ。家の中ですもの。淑女の仮面なんて、外でだけで十分です。家の中は、自由。私も娘もそうしていますわ」
元侯爵家の令嬢であるレジェスは、おっとりとした表情と口調でそう言い切る。
(どんな方がお継母様になるのかと思っていたけれど──なんて素敵なお考えの方なの! 家の中では自由にして良いだなんて!)
レジェスの言葉は、シェリールルにとって目から鱗が落ちるようなものだった。これまで、公爵令嬢としての教育、そして王太子妃教育を受け続け、四六時中気を張っていなければならなかった彼女にとって、これはまさに天からの恵みのように感じる。
「けれどその断罪とやらによって、私は婚約破棄のあと酷い目にあってしまうのでしたっけ」
「ええ。でもね、お義姉様。このゲームは、その悪役令嬢をユーザーが動かすこともできるのが特徴で、ザマァというものもあったのです」
「ザマァ、とは?」
「簡単に言えば、どんでん返しの報復です」
「……詳しく」
シェリールルもすっかり二人に感化され、言葉遣いが令嬢らしくなくなっている。それに本人も気付いているが、レジェスの『家の中では自由』が、彼女を解き放っていた。
「なるほど。つまり、相手が提示した罪に対しての正当性や反証で、逆にこちら側がやり込めるということなのね。それなら、婚約も破棄されて、かつこちらの気分も良いから最高だわ。でも、もしもそれが失敗したときは?」
「このゲーム自体は全年齢でしたから、処刑などはありませんでした。せいぜい修道院送りか……まぁぼかしていましたが、花街へ売られる形ですね」
すでに全年齢という言葉についても、言葉の響きで理解できるほどになっているシェリールルに、説明したアンヌも、横で聞いているレジェスも驚きを隠せないでいる。
「処刑がないなら安心だわ。そう、一番悪くて花街ね。確かに自ら志願するわけではないなら、なかなか厳しい世界でしょう。そこは追々解消しておけば良いわ」
「解消? いえ、それよりも、シェリールル様は随分と前向きにイメージされていますが」
「お継母様、私たちは親子になったのです。私のことは様づけではなく、他の家族のようにシェルと呼んでくださいませ」
レジェスの両手を取り、シェリールルはそう彼女に告げる。そうして、二人の顔を見て、にっこりと笑い口を開いた。
「私、悪役令嬢というものを、しっかりと目指したいと思いますわ!」




