28 聖女さまの登場ですが
「シェリールル公爵令嬢! アスミュート様を解放してください! 権力で縛り付けるだなんて、最低だわ!」
突然現れた少女は、シェリールルを指さし、彼女たちの前に仁王立ちになった。
(あー、どうしてヒロインってピンクの頭なんだろう。頭お花畑ってことなの?)
自らもピンクブロンドであることに少し前に気付いてしまったアンヌは、目の前の見ず知らずの少女を遠い目で見ている。この場には、義兄である公爵家嫡男のコールリアルと、シェリールルを溺愛して少々ヤンデレなのではという疑惑をアンヌが最近持っているアスミュートがいるのだ。
アンヌの出番はないだろう、と齧り付きかけていた肉を、美味しく頂くことにした。温かい内に食べた方が絶対に美味しい。
「シェル、俺の後ろに」
すぐにシェリールルをかばうように動いたアスミュートに、シェリールルはワクワクとした顔を隠しもせずに首を振る。
(お義姉様、ここが貴族の場ではないからといって、本音が漏れすぎの表情ですよ)
「アス、少し彼女と話をさせて欲しいの」
「……君がそう言うなら。でも、彼女と君の間の位置に俺が入るのは許してくれ。何かされたらと思うと」
「相手は女性よ? 大丈夫」
「それは油断だ。ダメだよ」
「ちょっと! なんでイチャイチャしてるのよ! シェリールル公爵令嬢ってば、アスミュート様に無理矢理そんなことに付き合わせて最低!」
「……アス、私無理矢理何かさせてたかしら?」
「まさか! むしろ俺が強引にシェルの側に居続けているだけだよ」
「ふふ。幼なじみのあなたが側にいるのなんて、当たり前じゃない」
目の前で展開される二人のやり取りに、突然登場した少女はプルプルと震えている。
(お義姉様! そろそろ構ってあげてくださいませ)
アンヌの心の声が聞こえたのか、ふと存在を思い出したかのように、シェリールルは少女に向かう。
「失礼。まずはお名前をよろしいかしら」
「……遅いわよ! 私はリアシュ。公爵家の権力で、アスミュート様を無理矢理側に置いているから、私が助け出しに来たの。さぁ、アスミュート様、私と一緒に行きましょう?」
リアシュの言葉は、この場にいる全員が理解できなかった。
「えぇと、リアシュ様? 公爵家の権力なんて、アスには意味がないのだけれど」
「それは少なくともそうだな。シェルの言う通りだ」
「第一、俺は俺の意志でシェルの側にいるんだしな」
それぞれに告げるも、リアシュは首を振るばかりだ。
「いいえ、それも言わされているに違いないわ。だって、私は光魔法の使い手、聖女です。私は、アスミュート様がシェリールル公爵令嬢に、がんじがらめにされて、側から離れられないでいる、と神の神託を受けたんです!」
手を天に上げそう告げる彼女は、確かに少しだけ聖女らしい神々しさがあったのかもしれない。けれど、それ以上に美しく、神々しいシェリールルがこの場にいる為、その聖女らしい神々しさは何の役にも立たなかった。
「……ある意味、その神託はあってますね」
「アンヌ嬢、その通りだ」
「ああ。シェルにがんじがらめにほだされて、身動き取れないでいるからな」
こそこそと三人で話しているが、肝心のシェリールルはニコニコと聖女を見ているばかりだ。
「なっ、何よ! 笑ってないで何か言ったらどうなの?!」
「リアシュ様、ぜひその光魔法を見せて頂けませんか?」
シェリールルの発言に、遠巻きにしていた領民たちも盛り上がる。
「魔法ってのが良くわからないが、なんだかすごい出し物をしてくれるんだってさ」
「魔法を見せてくれるの? マジックってやつかい」
「あのきれいなお姉ちゃん、領主様のお子様方に直接売り込みだなんてなかなか勇気あるよな」
そんな声が聞こえてきた。
「……っ、な!」
「リアシュ様。私たちに声をかけたということは、それなりに光魔法とやらに自信がおありなのですよね。是非見せてください。ただし、ここにいる領民に少しでも怪我をさせたら許しませんから」
静かに声を低くして微笑むシェリールルは、間違いなく領主の娘であった。
(あれ、お義姉様ったら、もしかして怒ってる?)




