25 ドレスの贈り物
「なんてきれいなドレス。ほら、アンヌの分もあるわよ」
「アスミュート様、遠慮がなくなったわねぇ」
「アンヌがアスにも気安く話しているからでしょう?」
「あ……いえ私のことではなく」
いつものように届いたドレスは、アスミュートの髪の毛のように、青みがかった黒いドレス。それに瞳の色の金色でたくさんの刺繍がされていた。
これまでは、シェリールルの瞳に合う色のドレスや、髪色に合う色のドレスを選んできていたが、先日のことがあったからであろうか。己の瞳や髪の色のドレスという、独占欲を全面に押し出したドレスを贈ってきたのだ。
「ふふ。まるでアスの髪の毛と瞳の色のようね。美しいわ」
「お義姉様、その感想を是非、アスミュート様に伝えてあげてください」
「え? あぁ、そうよね。でもアスの髪色みたいだなんて、失礼にならない? アスの髪の毛と瞳の色は、本当はもっと美しいのに」
(アスミュート様ぁぁぁぁぁ! お義姉様は無意識デレが酷いですぅぅぅぅ!)
心の中で叫ぶアンヌには無論気付かず、シェリールルは少しだけはにかんだ笑顔で、ドレスを抱きしめた。
「柔らかいこの生地も、まるでアスの心みたいね」
(お義姉様、本当に?! 本当にアスミュート様のことを、ただの幼なじみだと思っているの?!)
アンヌのツッコミが止らない。
「……アスが泣いて喜びそうだな」
「あら! お兄様」
「お義兄様ぁ!」
ドレスを広げていた広間を通りかかったコールリアルは、ちょうどシェリールルがドレスを褒め始めた頃から話を聞いていた。
(シェリールルはもしかして、恋心というもの自体を理解していないのかもしれないな)
多少は恋愛の小説や、年かさの侍女たちの噂話なども聞かせるべきだったか、などと後悔をするコールリアルではあるが、今更それを思ったところでもう遅いのだ。
「アンヌに届いたドレスはどれだ?」
「私のはこちらです」
「アンヌに良く似合いそうな、かわいらしいドレスなのよ」
アンヌのピンクブロンドの髪に良く似合う、軽やかなミント色のドレス。一緒に回る予定のコールリアルに配慮したのか、シェリールルと同じ青藍の瞳の色で、刺繍がされている。
「本当だ。良く似合いそうだな。では俺からは、二人にプレゼントとして装飾品を……ん?」
「それが──何故か私の分だけ、ネックレスとイヤリングが届いたの」
シェリールルはそう言いながら、ドレスとは別便で届いたそのジュエリーを見せる。
深い金色の石は、シャルリュートという滅多に取れない宝石。それを中央に配し、その周りを小さなダイヤモンドと細い金色の線とシードパールで装飾したペンダントトップ。それをシェリールルの瞳の色のサファイアのチェーンが支える。イヤリングは涙型のシャルリュートだ。
「……やり過ぎだ、あの馬鹿が」
「ね? 私には過ぎたものだわ。お返しした方が良いかしら」
「いいえ! お義姉様。それは喜んで受け取った方が良いと思うの。ねぇ、お義兄様」
「ああ。それは間違いなく、あいつがシャルに着けて貰いたいと思って作ったものだ。受け取ってやれ」
「良いのかしら」
「良いから!」
「良いと思うの!」
二人からの後押しで、シェリールルは「それなら」とどこか嬉しそうにネックレスを見つめる。
(やはり、シェルはアスのことを特別に思っているのだろう。だが──王太子との婚約を破棄させてから、気持ちを自覚させる方が安全だな)
「お、お義兄様。きっとアスミュート様は、ジュエリーはエスコートするお義兄様に花を持たせる為に……」
「あ、ああ。そうだな。アンヌのジュエリーは俺が用意しよう」
「確かにそうね! だから私にだけ装飾品が届いたのね」
(すまん、アス。これ以上はまだダメだ)
(アスミュート様ごめんなさい。あまりやり過ぎても、不貞を疑われたら元も子もないから!)
どうやらここに、義兄と義妹の新たな共同戦線が一つ張られたようであった。
「それにしても、このドレスは秋祭りを回るにはゴージャス過ぎないです?」
「あら、アンヌ。これは公爵領で行われる夜会の為のものよ」
「そうなの?! この間秋祭りと言っていたから、てっきり」
「そうか。アンヌにはきちんと説明していなかったな」
公爵領では毎年9月に秋祭りを開催する。
その年の豊作を祝い、領民全てが参加する楽しい祭だ。その祭は三日三晩続き、その後、四日目の夜は公爵邸で領内及び近隣の領地の貴族を招いた、夜会が開かれるのだ。
「秋祭りの衣装は、毎年侍女たちが作ってくれるのよ。我が領地の伝統衣装なの」
その言葉に、近くにいた侍女が衣装を見せてくれた。
「かっ! かわいい! 民族衣装萌え!」
「民族衣装萌え?」
「あ、お義兄様お気になさらずに」
すでに多少の不可思議言語について、シェリールルは軽くスルーできるスキルがついている。だが、義兄にはまだその機能が付いていなかった。
(かわいい! かわいいが過ぎる。でもまって……? この衣装、なんだか見覚えが……)
「この色合い、この装飾。見たことがあるのは……」
伝統衣装は、短めのボレロの後ろ側から手首にかけて、美しい刺繍が施された手甲が伸びている。それを手首でリボン状に結びつける形だ。スカートはハイウエストのベルト部分にやはり刺繍が。エプロンのように垂れ下がった布の縁には、幅広のレースが付けられていた。スカート部分は濃い青色の布で、どうやらそのスカートは何色でも良いらしい。
(ふふ。また何か思いついたのかしら? それとも……もしかして?!)
「お義姉様! 自称聖女が現れるかもしれません!」




