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継母と義妹に悪役令嬢と言われたので、しっかり務めたいと思います!  作者: 穴澤 空@4/11ドアマットヒロイン発売


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22 淑女の努力は地道ですの

「ミエット王女殿下、これが終わればロット王子殿下とのお茶の時間ですよ。頑張ってくださいませ」


 シェリールルは、ミエット王女と共に公爵邸の一室にいた。そこは、壁一面に鏡が貼られ、その前には一本のバーが取り付けられている、いわゆるバレエやダンスのレッスン場だ。


 通常の貴族の家にあるダンスのレッスン部屋には、これほどの広さも鏡も、バーも用意されていない。だが、マツィエ公爵家に降嫁してきたシェリールルの祖母が、王城の彼女の為に用意されたレッスンの部屋と同じものが欲しいと、時の公爵に頼み作らせたのだ。


 この部屋で、ミエット王女はシェリールルと、アンヌによって柔軟体操をさせられている。


「いたいぃ! いたいのよぉ! あなたたち、おうじょであるあたくしに、こんなことをして、ぶじでいられるとおもっているの?!」

「ええ、もちろんですわ。これはミエット王女殿下と同行されていた、殿下の教育係に許可を得ております」

「ひどい! でもおとうさまやおかあさまはゆるさないわよ!」

「その教育係に、殿下の指導に関しては一任されている、とも伺っております」


 冷静に返しながら、シェリールルの体の下で柔軟をしているミエット王女の体に、体重をかける。


「もおお! おもいのよ、あなた!」

「あら、女性に重いだなんて失礼ですわ。そうしたことをうっかり言ってしまわないように、レッスンしないといけませんわね」


(お義姉様……素敵。悪役令嬢らしく、しっかり第二王子を狙うヒロインをいじめ──指導しているっ! しかもなんだか……輝いて見えるのは気のせいかしらね)


 ミエット王女の横で、見本を見せるべく同じように柔軟をしているアンヌは、体の柔らかさには自信があった。

 侯爵令嬢だった母親に、体を柔らかくすることは令嬢としての基本のきであると、小さい頃からたたき込まれていたのだ。


 美しい所作、万が一の護身、そして結婚後の夫とのごにょごにょ。全てに於いて、体の柔らかさは必要になる。


「ほら、そんな粗雑な王女殿下では、我が国の第二王子の婚約者にはなれませんことよ」


(ああっ! お義姉様、そのまま語尾にオホホホホホホホと付けていただきたい!)


 アンヌはぺったりと床にその体を付けながらも、シェリールルの発言にうっとりとしていた。これはもう、病なのかもしれない。


「ミエット王女殿下、今日はあと少し。これが終わればお茶会です! そして体を休めた後、今度はウォーキングの練習です」

「いやあああああああ!」


 ミエット王女の叫び声が公爵邸の、ごくごく一部に再び響く。それを遠くに聞きながら、ロット王子とアスミュート、コールリアルはコーヒーを飲んでいた。アスミュートの領地の特産だ。


「僕、もっとうふふきゃはは、なお泊り会ができると思ってたんだよ」

「まぁ……。それはそうだよな。あの場では女性二人が、お泊り会の普段着ドレスの話とかしてたしな」


 ロット王子の言葉に、コールリアルが優しく返す。だが、本当はわかっていた。きゃっきゃうふふな楽しい会が開催される訳はないことを。

 コールリアルもアスミュートも、最近のシェリールルが、多くの令嬢を変える為に動いていると知っていたのだから。


(正直ロット王子のこの、腹黒の癖に女性には甘えるクソ根性も、この機会に叩き直してやりたいんだけどな)


 コールリアルがロット王子を慰めている様子を見ながら、アスミュートはそんなことを思う。


「はぁ。それにしても隣国の第六王女ねぇ……」


 コールリアルの言葉に、アスミュートが苦笑する。


「さすがにあの方が、婚約者になるのは難しいのでは?」

「アスミュート、正直なことを言うね。まぁ、僕もそう思ってる」

「でも、シェルの特訓で変わるかもしれないぞ?」

「あー……、確かに。シェリールル義姉様、自分が身につけていることは、他者もできると思いがちだからなぁ」

「それはロット殿下が王族だからですね。シェルはそれぞれの貴族の身分に見合った教養を求める人間だ」


 つまり今の第六王女ミエットには、王族に足る教養が不足していると、彼女は判断したのだ。お茶会のときに見ていた柔らかな視線の下には、そうした冷静な目があった。


 コーヒーを一口飲み込み、ロット王子は二人をちらりと見る。

 そうして、声を少し小さくして口を開いた。


「ねぇ……二人はさ、僕の側近になるつもりは、ある?」


 声を小さくしたことに意味は、ある。

 アスミュートとコールリアルは即座にその言葉の裏側を読み取った。


「ロット殿下が、この国の頂点に立つ自覚と覚悟を持たれるのであれば、このアスミュート・ヘクター、殿下の役に立つ側近になりましょう」

「ロット殿下のお覚悟が本気とあらば、コールリアル・マツィエは殿下と共にありましょう」


 二人の言葉に、発した方のロット王子は表情を一つ大人に近づけて頷く。


「ありがとう。シェリールル義姉様が婚約者である意味を理解できない兄上が、この国を正しく導けるとは思えない。僕は、努力を怠らないと誓うよ」


 これは、王太子の座を兄から奪うという宣言。ともすれば国家反逆罪ともとられるものだが、幸いにもこの国では、王太子が正式に国王として戴冠するまでは、次期国王としての資質を見られ続け、不足していると思われれば王太子の交代も行われる。


 だからこそ、王太子としてすでに第一王子が立太子しているというのに、公爵家では嫡男を第二王子の剣の師匠として、側に上げているのだ。

 二人の味方を手に入れたと確信したロット王子は、にんまりと笑う。


「そして、シェリールル義姉様を僕の妃に」

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