2 悪役令嬢って素晴らしいですわ!
「シェリールル様。おかしな話と思うかもしれませんが、まずは最後まで聞いていただけますでしょうか」
真摯なその表情に、シェリールルはゆっくりと頷いた。
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「なるほど……。悪役令嬢というのは、お二人がこの世に生まれる前の世界の、げぇむ? というものの登場人物の役割なのですね」
「はい。そして、私と娘は二人でそのゲームを楽しんでいました」
「ゲーム、という発音ですね。覚えました。それでそのゲームに私と同じ名前、同じ顔の登場人物がいて、その者がその悪役令嬢という役割を担っていた、と」
シェリールルの言い回しは少々硬いが、つまりはこういうことだ。
レジェスとアンヌは、いわゆる前世でも親子だった。そして、二人とも漫画やゲーム、小説が大好きなインドア派の、簡単に言えば二世代おたく。二人で作品をシェアしていた。
そうした作品の中の一つに、シェリールルが悪役令嬢として登場する、乙女ゲームがあった。タイトルは『シュペルプ・ラブ・ヴィータ~恋を楽しむ物語~』という、フランス語と英語とイタリア語が混ざり合った、主義主張を感じないものだ。ちなみに、ファンからは『シュペラブ』と呼ばれていた。
『シュペラブ』のヒロインは複数いて、ユーザーが好きな設定を選べる。そうして何人もいる攻略対象を落としていくのだが、その全てに於いて立ちはだかるのが、悪役令嬢のシェリールルなのだ。
「私が前世を思い出したのはアンヌが生まれたとき。この子は、生まれたときから前世の記憶を持っていました。ですが、私たちはあまりにも多くの似た作品をプレイしたり読んだりしていた為、この世界が前世で言う所の『シュペラブ』だとは気付いていなかったのです」
「ところが、私を見て『シュペラブ』の世界だと気付いた、と」
シェリールルは順応性が高い。すでに『シュペラブ』と略称でゲームを呼ぶようになっている。それに気付いた二人は、話が早いとばかりに次々と情報を提供していった。
「悪役令嬢とは……そのヒロインをいじめ、そして最後に婚約を破棄される役割ということなのですね」
「そうなのです。あの……お気を悪くされて」
「素晴らしいわ!」
「……ない、ですね」
あまりにも馬鹿正直に話してしまった為に、自らの人生を否定されたようにシェリールルが感じたのではないか、と心配したアンヌの言葉は、シェリールルの歓喜に満ちた声により、語尾を変えることとなる。
「お二人はご存じかと思いますが、私の婚約者はあの王太子殿下でしょう? このまま結婚するのは王命ですし、公爵家に生まれた娘としては仕方がないと諦めていましたの。でも、婚約を破棄してもらえるだなんて!」




