15 婚約者とのダンス……だけど
色とりどりの花が咲き、蝶が舞う場所。それが夜会だ。
今宵はこのドグラン国の王太子ストランド・ドグランの誕生日の夜会なので、国内の多くの貴族が招待されていた。
この国には二人の王子がいる。一人は王太子であり、シェリールルの婚約者のストランド。本日の主役で、今日15歳を迎える。そしてもう一人は8歳の第二王子のロット・ドグランだ。
「殿下、もう少し笑顔を浮かべてくださいませ」
「うるさいな。お前が隣じゃなけりゃ、俺だって笑顔でいる」
「左様でございますか。ですが、王族なのですから不満を表に出さないのも、仕事の1つではありませんか?」
例えばこれが、日本の15歳であれば許されたかもしれない──。だがしかし、この世界では16歳でデビュタントとして大人の仲間入りをする。つまり、その前年の15歳は、準成人となるのだ。さらに、高位貴族になればなるほど、幼い頃から人前で自分の感情を表に出さない訓練をする。
貴族の頂点とも言うべき王族の、それも15歳を迎える誕生日に、不満を顔に出すことはシェリールルでなくとも、身近な存在が注意をして然るべきことだった。
(そもそも、私には王太子妃教育で表情や所作をうるさく指導するくせに、肝心の王太子の教育がこんなにも疎かで良いのかしらね)
王太子を見ながらそんなことを思いつつ、シェリールルは笑顔を貼り付けたまま正面を見た。
(まぁ、あと少ししたら彼が愛して、彼を愛する女性が現れて、私はお役御免。そう考えたら、気が楽だわぁ)
傍目にはわからないが、心の中では相当浮かれている。
「殿下、それでしたら私は殿下のご挨拶とファーストダンスが終了いたしましたら、お側を離れさせて頂きます」
「ああ、それが良いな。俺は挨拶をせねばならないしな!」
彼の目線の先には、令嬢たちがいる。
(あなたが挨拶を受けるのは、あちらのおじさま方のはずですけれどね)
一方のシェリールルの目線の先にいるのは、この国の高位貴族の家長たちだ。次期国王としては、彼らの心を何らかの方法で掌握する必要がある。その為には、まずは顔つなぎが大切なのだというのに、それがまるでわかっていない。
これまでだったら、シェリールルがその役割を渋々引き受けていただろう。だが、今は彼女は後の王太子妃は己ではないと思っているのだ。どうしてつまらない挨拶に、付き合う必要があるのか。
(考えてみたら、まだ婚約者だもの。全てに付き合う必要なんてないのよね。王族の仕事は王族に。切り分けって大事だわ)
王太子も、近くにいない方が良いと言うのだから、問題はない。シェリールルの気分は、一気に楽になった。
やがて国王の挨拶、王妃の挨拶、次いで王太子の挨拶が終了すると、夜会がスタートする合図としてダンスが始まる。そこでファーストダンスとして踊るのが、その日の主役とその伴侶、もしくは婚約者だ。
それに関しては、王太子もシェリールルと一曲は踊らねばならないとわかっているのだろう。素直にダンスに応じる。ただし、短い曲をかけるよう、楽団に指示を出していた。
(やることが小さいのよね)
この王太子、正直勉強の方はあまり得意ではないが、ダンスは非常に上手い。そんな彼とダンスを練習せざるを得なかったシェリールルも、自然とダンスが上手になっていった。
シェリールルの美しいステップと、それにあわせてひらひらと花のように舞うドレスの裾に、会場の多くの人間が見惚れる。
そのドレスは、アスミュートが贈った物だ。
シェリールルの美しい青藍色の瞳に似合う、薄い桜色のドレスは、彼女の美しさも相まって、見る人を惹き付ける。
曲が終ると、周りから拍手が贈られた。そうして次の曲が始まると、多くの貴族たちが、我先にと踊り出す。
「ほら、踊ったぞ。あとは別行動だ」




