砂の城、彩りの祭
朝の光が、街の輪郭をはっきりさせていった。
歩き出すには、もう十分だった。
強い日差しが地面を白く染めている。
大地から湧き上がる熱は、渦を巻いていた。
水分を帯びていない砂は乾燥した風に泳いで空を舞う。
エリンは目を細める。
「…差し込むような光は苦手だ…。」
旅の一行は、フードを深く被る。
砂塵が目を覆い霞んだ世界を歩く。
「ふむ、この風が止むまでは、休むべきだ…」
ローブの中から顔を出す黒猫のヴェルが言う。
一行は砂に押されるように岩の影へ身を寄せ、
風が緩むまで休むことにした。
風が収まると立ち上がるリリィ。
遠くの方で、煌めいた何かを見つけると眉を寄せて視線を鋭くする。
「石の壁だっ、街かな。」
脚音を砂に奪われながらも、リリィは突然駆け出す。
「エリンー!! いりぐちー!!」
絹のような滑らかな褐色の世界の奥に聞こえる、
リリィの声を頼りに近くまで歩く。
石の壁は予測通り街の外壁だったようだ。
外壁の内側に、人の気配を感じる。
堅牢な扉を門番が開けると、賑やかな街の匂いがした。
「祭事…か。」
ヴェルが低い声で呟く。
門をくぐると、多彩な色布や、風に泳ぐ旗。
屋台や人混みが一直線にエリンたちの瞳に映る。
「おーーーー!祭りだッ!やったぁ!!」
リリィの体がふんわりと浮き、歓声は雑踏に溶けた。
「ねえ!エリンー!見て、髪飾りエリンにきっと似合うよ!」
屋台一つ一つに、声を弾ませて感想を述べていく。
「うーん…ボクは苦手だな…。」
じっとりとした瞳で、遠くのリリィを見つめるエリン。
エリンにとっては、同じ景色なのに映る世界の光り方が違ったように感じた。
「――同感だな。」
低く唸るヴェル。
「ここにも人混み嫌いがいた。」
少し口元が緩むエリン。
街の隅々まで練り歩くリリィと対象に、
中央の広場にある噴水に腰かけて陽の光が傾くのを待つエリン。
やがてエリンの望むように日が傾くと、街は違う表情をした。
一斉に灯る魔道具が、街の石畳を優しく照らす。
褐色の世界はあたたかいオレンジ色に塗り替わる。
「きれい…」
幻想的な瞬間にリリィの心が躍る。
「ね、そろそろ宿探そうよ…」
エリンはリリィのローブの裾を指先でつまむ。
リリィはエリンを見下ろす。
その顔はもう少しここに居たいと言いたげであった。
黒猫のヴェルは、
宿に着くと迷わず、ベッドの一等地に横たわり丸くなる。
今日は”大人しかった”ランタンをベッドのそばに置く。
昼と夜の気温の差が窓越しに伝わってくる。
窓の外を眺めるエリン。
エリンの瞳には、夜空に輝く星が飛び込む。
まるで、夜という漆黒の布の上を転がる輝石のようだった。
「ラズリ、おやすみ。」
エリンは囁くようにランタンに声をかける。
ランタンは一瞬淡い光を放ち、一拍置いて落ちていく。
((なんでお土産がないのー!!))
ランタンの灯りが消える頃には、
言葉は必要なくなっていた。
夜はちゃんと夜の役目を果たしていた。
――世界はこうも美しい。




