□ 2-32 ロイとの手合わせ(3)
ロイは気が付くと、全く身体を動かすことができない。
始まって一瞬でこの有様―――状況が呑み込めないようだ。
「こ、これは……」
「ふ ふ ふ、死神の『魔眼』の力ですよ。
相手に呪いをかけて、思うままに操ることができるんです。
あー、右目が疼いてしまいますぅ~(棒)」
我ながら雑すぎる設定に、笑いを堪えつつ棒読みになってしまう。
『魔眼』だなんて、異世界物語の世界の話だ。
もちろん、右目が疼いたりはしない。
俺はさらに痛いセリフを続ける。
「ふふふ、手合わせだなんて、なかなか面白い余興ですけど……
ボクは死神ですからね、正面から戦うなんて、するわけないでしょう?
なので、さっそく魔眼を使わせていただきました。
さあ、ここからが楽しいところですよ」
「ま、魔眼……? ば、バカな……」
ロイは目を見開き、信じられないといった顔をしている。
「ほう? 死神の力を疑うというのですね。
では――あなたの魂、取り出してみましょうか」
俺が手を向けると、ロイの身体から白い煙がスッと抜け出し、手のひらに集まって灰色の球になる。
ロイの視野もいつの間にか“魂側”に切り替わり、自分の抜け殻の身体を見下ろすように見せられている。
もちろん全部、幻術だ。
「ご覧ください、ロイさま。
あれが抜け殻となったご自身の身体です。
あなたは今、魂だけの存在となりました。あ~ら不思議ですねえ(棒)」
「ひ……っ」
さすがのロイも震えはじめた。
魔眼の力で動けなくなったと思ったら、魂を取り出されて、抜け殻となった自分の身体を見せつけられているのだ。
俺はさらに追い打ちをかける。
「昨晩『禁呪、大いに結構だ!』とか『喜んで死んでいく』とかほざいてましたよね。
死神であるこのボクに向かって!
そろそろその報いを受けていただきましょうか。
あっさり死んでもらってもいいんですけど、それじゃあ面白くないかなあ?
ここは禁呪を使っちゃいましょう。
――例えば、この魂をその辺の動物にでも移したらどうなりますかねえ」
「き、禁呪……!? そ……そんな……!」
ロイは動揺がさらに大きくなる。
そこへちょうどそこへ犬が歩いてくる。
もちろん幻術だ。
「ふふふ……いいところに可愛い犬が来ましたね。
ロイさま、犬になってみませんか?
魔族じゃなく犬として生きていくのも楽しいでしょう。
ボクのペットにして可愛がってあげますよ」
俺は魂のロイに向かってニタァっと微笑む。
「い、犬……!!
そ、それは……ダメだ……メルジーヌさまにお仕えできなくなってしまう。
お、お、俺の負けだ!
負けだから、それだけは……!!」
ロイは完全に観念して叫びだした。
まあ、ここらが潮時だろう。
「ふふふ……失敬失敬。
ちょっと怖がらせすぎたようですね。
そろそろ許してあげましょう。ボクは慈悲深い死神ですから。
はい、元の身体にお戻りください」
魂を戻す仕草をすると、白い煙がロイの身体に吸い込まれ、ロイの視野も元に戻る。
「はあっ……はあ…はあ……」
ロイは汗だくになり、がくがくと息をしていた。
さぞかし生きた心地がしなかっただろう。
魂を抜かれた挙げ句、チワワにされかけた―――そりゃ精神が崩れる。
そこへメルジーヌ(幻術)が現れる。
『あら、とんだザマね、ロイ。
だから言ったでしょう?
“死神には勝てませんわ”って』
「は、ハッ、も、申し訳……」
『ふふん……もういいのよ。
アレンはもう、わたくしの“愛人”ですもの』
メルジーヌはそう言って俺を抱き寄せる。
『うふふふふ……よく頑張ったわね、アレン。
えらいわ~
ご褒美のキスをあげましょうね』
メルジーヌは、ロイに見せつけるように俺に口づけをする。
ロイは複雑すぎる表情でその光景を見ていた。
『アレンは魔眼も禁呪も使えて、ほんとに強い子なのね。
わたくしは、強くてカワイイ子が好みですの。
アレンみたいにね。
おほほほほほ……!!』
メルジーヌは俺をナデナデしながら高らかに笑う。
ロイは両手を地面に付き、ガックリと首を落とした。
眼からは涙がこぼれ落ちているようだ……。
かわいそうに、ロイ。
……さあ、これくらいでいいだろう。
これでロイのメルジーヌへの恋心も、綺麗に砕け散ったはずだ。




