□ 2-29 メルジーヌとの交渉(4)
どうやら二人は――俺を取り合っているらしい。
昔から俺を溺愛しているミラはともかく、メルジーヌも主導権を握るため、俺を取り込もうとしているのだろう……
だが俺にとっては史上最大級のピンチだ。
どっちを選んでも超ヤバイ。
ミラを選んだらメルジーヌの協力が得られなくなって、今後の計画が破綻。
かといってメルジーヌを選んだら、ミラに見捨てられそう……
はぁ……困ったなあ。
こうなったら、どちらにも俺を諦めてもらうしかないか……
これは、アレだ。
昔読んだ王宮戯曲にあった、『二人の美姫に迫られて悩む王子』のパターン。
たしかどちらも選ばず、哀愁漂わせてカッコよく立ち去る、あれだ。
よし、このコンセプトで行こう。
「ぼ、ぼくのために美しい女性が争うなんて……ぼくは悲しいなあ……」
俺は額に手を当て、苦悩に満ちた顔を作りながら、独り言のように話し始める。
「きっと、ぼくが思わせぶりな態度を取ってしまったんだね。
知らないうちに二人の心を弄んでしまってたなんて……
ああ、ぼくは……なんて罪深い男なんだ……」
俺は頭をかかえて左右に振り、悩める王子のポーズを取る。
“二人の争いは俺のせい”と印象づけ、引くための空気を作る作戦だ。
ミラ&メルジーヌも苦い顔をしているが、耳は傾けてくれている。
――今しかない。
「ぼくがどちらを選んでも、一人の女性を不幸にしてしまう。
ああ! 運命とは! かくも残酷なものなのか!
ぼくの胸は張り裂けてしまいそうだ……
ああっ、神よ! なぜぼくにこのような過酷な試練を与えたもうのだ!
残念ながら、ぼくには身体が一つしかない。
どちらかを選ぶなんて、そんな無慈悲なことはできそうにもないよ」
いよいよ盛り上がってきた。
さあ、あとはフィナーレだ。
「……どうやらここは、ぼくが身を引くしかないようだ。
ああ、二人はぼくのことは忘れて、どうか仲直りしてほしい。
さよなら――ぼくの愛しい人たち……」
俺はミラ&メルジーヌに背を向けて、片手を上げて歩き出す。
台本通りの“去り際の美学”だ。
(…………)
沈黙。
よし、これで二人の争いは止まるはず……
「……ちょっと、ミラ。
この坊やを〆といてもらえるかしら」
「えーえ。喜んで。
やっと意見が一致しましたね、メルジーヌさま」
え? ええええ?? どういうこと?
争いは止まったっぽいけど、なんか思ってたのと違う展開なんですけど。
なぜか意気投合してるし。
――そして俺は、背後からミラの容赦ない脳天唐竹割りをくらって崩れ落ちた。
「このドラ息子ーっ! 調子に乗るなぁーっ!」
「ウボァー!」




