□ 2-28 メルジーヌとの交渉(3)
「まず、1つ目の条件。
あなたたちにも魔族に協力してもらいますわ。
“魔族の女王メルジーヌとその愛人”としてね」
「ええ、それはもちろんですわ」
ミラが即答した。
俺たちはもともと魔族の発展も望んでいる。
異存はない……はずだったが。
「ふん、本当に?
ミラ、あなたはこれから“わたくし”として動くのでしょう?
ならば、ラミビア聖王国との交渉でも、魔族の代表として魔族の利益を最優先してもらいますわ。
人族であるあなたに、その覚悟があるのかしら?」
さすがメルジーヌ、突いてくるところが鋭い。
ミラは元・王宮育ちの人族だ。
魔族の側に立てと言われて、簡単な話ではない。
ミラはどう答える――?
「メルジーヌさま、その点はご心配なく。
私はこの城に来た時から、メルジーヌさまとして生きる覚悟をしていますわ。
ミラとしての身体はもうありませんもの。
ですが、人族が一方的に不利になるようなことはできません。
魔族が損をしないように、公平に判断いたします。
判断が難しい時は、メルジーヌさまと相談しますわ」
「……まあ、それでいいでしょう。
生贄をやめる以上、聖王国からは相応の見返りはいただきますわよ。
それに相手が出てくるようなら、当然火の粉は払いますわよ」
口調は物騒だが、一応は納得してくれたようだ。
「では、2つ目の条件。
アレン――あなたがロイとの手合わせに勝つことですわ」
「えっ……!」
「アレンに負けたわたくしが言うのもなんですけど、ロイに勝てないようでは、魔族内の説得力がありませんの。
ロイは魔族の間で人気がありますのよ。
彼と対立したままでは、この話は進みませんわ。
あの頑固さ、分かるでしょう?」
わかるけども!
よりによってロイに勝てって……ハードルが高すぎる。
「はぁ……何とか、頑張ります……」
一気に心がどん底に落ちた。
ロイにコテンパンにされ、全てが終わる未来がチラつく。
「ふふふ……ロイに負けても命までは取りませんわよ。
わたくしの愛人として、末永く可愛がってあげますから」
……これは完全に、メルジーヌに嵌められているのではないだろうか。
「3つ目。
わたくしが望んだら、表に出してくれること」
さらっと言ったが、今回の最大の争点じゃないか。
「メルジーヌさま、そこは淑女の協定、ということでお願いしますわ」
ミラが静かに返した。
「魔族の利害が絡む場では、メルジーヌさまに出ていただくべきだと思いますし、
逆に私からお願いすることもあるでしょう。
お互い、徐々に妥協点を見つけていきたいですわ」
「……ふん、まあ仕方ありませんわね」
メルジーヌもあっさり引き下がった。
突っ込んでも平行線になると判断したのだろう。
後で問題になりそうだけど。
「そして最後、4つ目の条件――
ミラは、アレンを独り占めしないことね」
(……え!?)
さっき一国の女王としての条件、みたいなこと言ってけど、これって必要……?
「ダメぇ!!」
ミラが即答で拒否した。
「アレンは私のものなんだから!」
いや、俺はいつミラの所有物に……?
「あらぁ、聖女たるものが、余裕ありませんのね。
それほど自信がないのかしら?
“隷属の口づけ”――あれはわたくしの分もまだ有効ですのよ。
でも、恋愛は自由意志ですわ。無理強いはしませんわ」
メルジーヌが優雅に笑った。
メルジーヌのキスもまだ有効だったとは……
っていうか、恋愛の話なんですか? コレ……
「ぐぬぬ……」
「それにあなた、今朝までは老婆だったのでしょう?
わたくしの身体で若返ったからと言って、アレンを独り占めしようなんて――ずうずうしいですわね」
容赦がない。
「なによ!
あんただってアレンに無様にやられたんでしょ!
この世から消えてたはずなのに、ずうずうしい……わね!」
し、師匠、メルジーヌさまのこと『あんた』呼ばわりしてますが……
メルジーヌとうまくやっていきたい、って話はどうなっているのか。
「ふん! でもわたくしの身体と美貌はこうして健在ですからね。
先ほどもアレンはわたくしの魅力にメロメロでしたわよ。
もう少しで虜にしてあげるところでしたのに、残念でしたわ。
おほほほほほ!」
メルジーヌは勝ち誇ったように笑う。
「ふんだ! 私にはアレンとの10年の積み重ねがあるんだから!」
「ふふん、養母と子、の関係じゃなくて?」
「なによ!
アレン! アレン当然、私を選ぶよね?」
ちょっ、選ぶってどういうこと?
「あら、アレン?
選ぶ相手を間違えないようにね。
あなた、わたくしを“だーい好きに”なるんじゃなかったのかしら?」
え? メルジーヌも何を言ってるのか。
「「ア レ ン!! どっちなの!?」」
気のせいか、二人の声がハモって聞こえる。
……どうしてこうなったんだっけ?




