□ 2-24 魔王城の夜(4)
「あ、あの……聖王国との協定改正の話は……?
ぼく、聖王の隠し子として、交渉でもお役に立てると思うんです。
精いっぱい頑張りますので!」
俺は必死に話の流れを戻そうとする。
「うふふ、確かに面白い話でしたけど――わたくしが健在なら関係ありませんわ」
メルジーヌは艶然と笑いながら、冷たく言い放つ。
「外交はね、力で決まるの。
生贄をやめて力が衰えたと思われたら、逆に攻め込まれますもの。
協定を変えるつもりなどありませんわ」
冷徹な現実が突きつけられ、俺は言葉を失った。
「それに、あなたたちは少々やりすぎましたわ。
すぐにでも八つ裂きにして差し上げるところですけど……それも興ざめですわね」
ゆっくりと微笑み、紅い舌で唇をなぞる。
「じっくり、楽しませてもらいますわ」
「くっ……」
絶望が胸を押し潰していく。
ここまでか。
もはや逃げ場などない。
「おほほほほ、いいわねえ、その泣きそうな顔。
いたぶりがいがありそうねえ。
うふふふ……たっぷりと可愛いがってあげますわ。
わたくし、もう長い間、ずっと退屈していましたのよ」
久しぶりの獲物を前に、背筋が凍るような笑みを浮かべながら、メルジーヌはゆっくりと近づいてくる。
後はこの狂気の魔女にいたぶられ、なぶり殺しにされる。
もはやそんな未来しか想像できない。
メルジーヌは俺を見下ろし,全身を嘗め回すように視線を這わせ――ふっと笑った。
「……その可愛らしい顔。気に入りましたわ。
さあ――わたくしの愛人になりなさい」
耳元へと顔を寄せ、甘く囁く。
次の瞬間、なんと、そのふくよかな胸の膨らみを俺の腕に押し付けてきたではないか。
「あっ……」
柔らかな感触に、どきん、と心臓が跳ね上がる。
先ほどまで打ちひしがれていた俺も、さすがに戸惑いを隠せない。
この俺をなぶり殺すつもりでは……ない?
だとしたら、これからいったい何を――?
あたりには甘い香気が漂いはじめていた。
鼻腔を満たすたびに、胸の奥の理性が溶けていく。
「おほほほ……まだウブな坊やなのね。ますます気に入ったわ。
こんなにも可愛い坊やは……150年ぶりかしら?
うふふ……あの時はエルフの子でしたけれど、今度はハーフエルフだなんて、ほんと楽しみ」
そうだ、この魔女は、男を虜にする淫魔でもあったのだ。
小柄でベビーフェイスな俺は、完全に彼女の“好み”に刺さってしまったのだ。
メルジーヌは俺を抱き寄せ、ぐっと顔を寄せ――
その豊満な胸を、今度は俺の顔へ押しつけてきたではないか!
(わわわっ……これは……)
視界いっぱいに広がるのは、たゆんたゆんと揺れる巨大な何か。
布越しに柔らかくプニュっとした感触が伝わってくる。
むしゃぶりたくてたまらない衝動が、猛烈に沸き上がってくる。
「うふふふ……いいのよ? “自由”にしても」
(じ、じじじ、自由に~~っ!?)
その声は、まるで脳内に直接響くように、俺の理性を瞬時に溶かしてしまった。
「お、お姉さまぁ……」
気づけば俺は、その巨大な膨らみに鼻を埋めていた。
ふーっ、と鼻で大きく息をしながら、甘い匂いをむさぼるように吸い込む。
うっとりとする匂いが俺の理性を奪い、思考を支配していく。
「うふふふふ、いい子ね。素直な子は好きよ。
……さあ、食べちゃいますわ」
「はぁい」
とろんとした声が、自分の口から漏れる。
メルジーヌの白く細い指が、そっと俺の顎を持ち上げる。
艶めく唇が、まるで吸い寄せられるように、俺の目の前に迫る――
「ふふふ……サキュバスの口づけは、魂の隷属の契り。
未来永劫に、お前はわたくしのもの」
ぞくり――と背筋が震える。
怖いはずなのに、逃げたいはずなのに、動けない。
「――代償として、お前にはわたくしの庇護を。
どんな相手も――即座に殲滅してあげますわ。
この“狂気の魔女”が、ねぇ……おほほほほほほ……!」
メルジーヌの高らかな笑いが、甘い毒のように広がっていく。
頭の奥が痺れ、理性の糸はとっくに断ち切られている。
ただ、この魔女に身を委ねたい――その衝動だけが残っていた。
ようやくプロローグの伏線を回収できました……




