□ 2-17 ロイとジャスミンの思惑
――― ロイ視点 ―――
メルジーヌさまが、あんな小僧に敗れた……
どうやら嘘ではなさそうだが、いまだに信じがたい。
見た目は単なる子供。
どうやってメルジーヌさまを打ち倒したというのか。
死神の力? 禁呪?
そんなものは知らん。
メルジーヌさまが本気で魔術を叩き込み、全力で斬りかかれば、負けるはずがない。
恐らく、メルジーヌさまには何か油断があったのだろう。
聖女の自爆と同時にやられたー―という話だったが……
ここは俺が仇を取るしかない。
幸い、手合わせの申し出は受けやがった。
俺が油断することなどありえん。
衆目の中での一対一なら、聖女の自爆などというイレギュラーも起こらない。
先手必勝で畳みかければ、それで終わりだ。
もちろん、メルジーヌさまの前で小僧を殺すわけにはいかない。
だが、骨の一本や二本折って、逆らえないようにするぐらいなら問題ないだろう。
うまくいけば聖女を従わせる材料にも――
くくく……楽しみになってきたな。
◇◇◇◇◇◇
――― ジャスミン視点 ―――
……どうも腑に落ちないわね。
メルジーヌさまの身体が聖女に乗っ取られた――そこまでは本当みたいだけど。
でも、急に「女王を辞める」なんて言い出すのは、ちょっと不自然よね。
聖女ミラも、出てきたと思ったらロイの怪我を治したり、仲良くさせていただきたい、なんて下手に出てくるし。
アレンはアレンで、自分はメルジーヌさまの“愛人”だと頑なに主張してるし。
そのアレンを、メルジーヌさまは妙にかばってるし。
(……話ができすぎている気がするのよね)
アレンは“死神”なんでしょう?
なら、メルジーヌさまを精神支配しているのかもしれないわね。
そもそも本当にあれはメルジーヌさまだったのかしら?
でも、もし邪な力が働いているなら――
今晩、全部明らかになるはず。
メルジーヌさまの寝室には強力な守護結界がある。
精神支配ならそこで解ける。
死神の力だって、あの部屋では本領は発揮できない。
(ふふ……面白くなってきたわね)
他の魔族には悪いけど、私はメルジーヌさまが好きで側にいるだけ。
国そのものに思い入れなんてないけど、メルジーヌさまさえ無事でいればいいんだけど。
あ、でもアレンーー
あの子は可愛いわね。
ベビーフェイスが妙にそそるのよ。
一度、メルジーヌさまと一緒に泣かせてみたいわ。
あの可愛い顔が涙でくしゃくしゃになったら……ああ、想像しただけでたまらない。
◇◇◇◇◇◇
そんなロイやジャスミンの胸中など露ほども知らず、
俺はただ、これからの夕食に向けて気を引き締めていた。




