表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/56

□ 2-15 魔族を懐柔する(4)

 ――さて、ここが正念場だ。


 “死神”なんて得体の知れない存在が、本当にメルジーヌに忠誠を誓っているのか。

 しかも「愛人として一生仕える」などと言っているのは本気なのか。

 ……ジャスミンは、そこを疑っている。

 いや、当然だ。ここで曖昧な返事をすれば、全部が水の泡だ。


 俺は腹をくくり、ジャスミンの視線を真正面から受け止めて口を開いた。


「ええ、誓いました。

 俺の心は、完全にメルジーヌさまに奪われています。

 この世界で誰よりも美しく、強く、そして魅力的な女性に……俺は恋い焦がれているんです」


 俺は一歩進み、堂々と宣言する。


「その証拠を――今、ここでお見せしましょう!」


 ……そう。勝負は、ここから。

 誠に不本意ながら、 “おねショタ”しかない。


「お、お姉さまぁ……

 ぼく……お姉さまのことが……だぁいすきなのっ」


 舌足らずの甘え声。たどたどしい足取りでミラに駆け寄る。

 我ながら完璧な演技だ。


 一瞬、ミラの顔に「えっ!?」という素の驚きが走ったが、すぐに切り替えて手を差し伸べてくれる。


「まあっ……アレンったら、甘えん坊なんだから」


 優しい声で、頭をナデナデしてくれる。

 いい感じだ。

 阿吽(あうん)の呼吸で、ミラも俺の演技に合わせてくれている。


 ちらりと魔族たちを見ると、皆、強張(こわば)った顔で固唾(かたず)を飲んでいる。


「お姉さまって……とっても綺麗で、いい匂いがするの。

 ぼく、ぎゅーってしてほしいの」


「うふふふ……もちろんよ。なんて可愛らしい愛人なのかしら?

 すぐにでもお持ち帰りしたいわ。

 後で二人きりでお部屋に行きましょうね」


 ミラが満足そうに俺をぎゅーっと抱きしめる。

 お持ち帰りとは……?

 その言葉には少し引っかかったが、俺は一層甘えた声で続けた。


「はぁい、お姉さまぁ……

 ぼく、お姉さまの愛人になれて、しあわせですぅ」


 魔族たちを見ると、皆、能面のような顔をして、完全にドン引きしている。

 だが、これで俺がメルジーヌの愛人だと確信できたはずだ。


「おほほほほほ!

 あなたたち、よくわかったでしょう?

 アレンはこの通り、わたくしの(とりこ)なのですわ。

 何も心配することはありませんのよ」


 ミラが上機嫌で魔族たちに言い放つ。

 その堂々とした態度に、魔族たちは脱力したかのようにうなずき始めた。

 俺もすかさず言葉を重ねる。


「そ、そんな感じなんです。

 少々お見苦しいところをお見せしましたが……ぼく、いや俺にとって、メルジーヌさまは理想のお姉さまでして。

 どうしようもなく魅入られてしまったんです。

 愛人としてお仕えできるなんて、これ以上の幸せはなくて……」


 魔族たちの視線が柔らかくなっていく。

 ジャスミンも釈然とした様子で、どこか笑っているようだった。


「うふふ、アレンさま……なかなか興味深いものを見せていただきましたわ。

 どうやら、メルジーヌさまの魅力にすっかり虜なのですね」


 おお、俺の渾身の演技が効いてる。


 ……さて、ここからはもう少し“真面目な俺”を見せる番だ。

 今後のことを考えると、話が通じるところも見せておかねばなるまい。


「ええ、メルジーヌさまに惹かれたのは、見た目の美しさだけではないんです。

 メルジーヌさまと戦って分かったんです。

 その強靭な肉体、膨大な魔力、魔術と剣術の技量……俺が勝てたのは奇跡みたいなもので、魂の転生の禁呪という裏技がなければ、到底かないませんでした」


 魔族たちがピクリと反応する。

 俺は熱っぽく続ける。


「それに、メルジーヌさまはこの国メルジニアを築き上げた偉大な女王です。

 ここに来る途中の街の繁栄には圧倒されました。

 知恵と力を兼ね備えた為政者であり、美貌の女王―――まさに理想のお姉さま。

 そんな方にお仕えできるなら、逃す理由がないと思ったんです。

 だから、マゾとかそんな話ではなく、純粋に心からお仕えしたいと思ったんですよ」


 魔族たちも、主人であるメルジーヌを称賛されてどこか誇らしげなようだ。

 ロイなどは「そうだろう」とでも言いたげな顔をしている。


 そこで、俺はミラのことも加えていく。

 少しでもミラの印象を良くしておけば、後々、協定改正の話も進めやすくなるだろう。


「……そして、メルジーヌさまの身体を共有するミラも、メルジーヌさまを心から尊重しています。

 ミラは聖女です。

 いつも自分の幸せよりも他人の幸せを考える、そんな人なんです。

 決して魔族に害をもたらしません」


 俺は静かに、しかし確固として続けた。


「ミラは俺の母親代わりで、命がけで俺を救ってくれました。

 メルジーヌさまとの戦いで、ミラの自爆がきっかけとなって魂を封じ、こうして一つの身体に宿ることになったんです。

 俺にとって、メルジーヌさまとミラ……その両方に仕えることは心からの喜びです」


 魔族たちは静かに聞き入っている。


「もちろん、メルジーヌさまの身体を奪ってしまったことは、本当に申し訳なく思っています。

 けれど戦いの最中の出来事でした。

 生きるために、お互い必死だったんです。

 どうか……どうか今のメルジーヌさまとミラ、そして“愛人”としての俺を、受け入れて頂けたら」


 言い切ると、場にしんと静寂が落ちた。


 しばし沈黙が流れたが、やがてジャスミンが口を開いた。


「アレンさま。

 あなたが、メルジーヌさまとミラさまを心から慕っていること、よく伝わりましたわ。

 戦いの果てに互いを尊重されている……そのように理解しました」


 敵意はない。

 ジャスミンの目はむしろ、評価するように光っている。


「それにしても……アレンさまは並外れた才能をお持ちですね。

 死神としての力だけでなく、すばらしい弁舌まで備えておられる。

 魔族の前でも動じない。

 そのアレンさまがメルジーヌさまに心から仕えるのならば、異存はございません」


 最後に――


「聖女ミラさまも同居されているとはいえ、メルジーヌさまがご健在なのは事実ですもの。

 ミラさまなら、きっとメルジーヌさまを最大限に尊重されるでしょう」


 ……ミラにプレッシャーをかけつつも、受け入れてくれたようだ。


 とりあえず――最大の難所は乗り切った。


 それにしても、『サキュバスの愛人』だなんて、成り行き上、そういう設定にしてただけなのに、ここにきて名実ともに“ミラとメルジーヌの愛人”になってしまうとは……


 ……これも全部、ミラの計画のうちだったのか?

 たしかに、この方が都合がいい。

 俺がミラ、いやメルジーヌと行動を共にしていても、『愛人』ならば魔族たちも文句をつけにくいだろう。


 さすがはミラだ。

 俺を愛人にする、というのはやはり深慮遠謀の策だったのか?

 絶対違うとは思うけど……


 いずれにしても、まだまだ俺もミラには敵わないということだな……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ