□ 2-7 ミラの告白めいたもの
ミラは優しく微笑みながら、言葉を続けた。
「ねえ、アレン。少しだけ聞いてほしいの。
私はこれまでずっと聖王国のために生きてきたけど……そのあと、アレンと過ごした“第二の人生”は、本当に幸せだったのよ。
まだ小さかったアレンが、日に日に成長して……立派な青年になっていく姿を側で見られたこと。
毎日笑って、ときに泣いて、一緒に乗り越えて……その時間は全部、私にとってかけがえのない宝物だったわ」
その声は優しくて、温かくて、胸の奥がじんわりと熱くなる。
俺に何を伝えようとしているのか……
ミラはひと呼吸置き、視線を伏せて続けた。
「でもね、私はもう六十半ば。体は弱るばかりで……“ああ、もうすぐ人生も終わるんだろうな”って思っていたの。
アレンをもっと長く見ていたかったけど、それは叶わない願いだって分かってた。
それでも、あなたに会えて、本当にいい人生だったと思えたのよ。
結局メルジーヌにやられてしまったけど……」
そこで俺が眉を寄せると、ミラは小さく首を振って微笑む。
「でもね、そんな私に、アレンは……また身体を与えてくれた。
こんなに若返って“第三の人生”が始まるなんて、夢みたいだわ。
どんなに感謝してもしきれないの。
しかも……目が覚めたら、メルジーヌをたった一人で倒したって聞いて、もうびっくり。
転生の術まで使えるようになって……アレンはもう超一流の魔術師よ。
あの可愛かったアレンが、こんなにも頼もしい男になって……私は、すごく誇らしいの」
まっすぐ見つめられて、照れくささがこみ上げる。
「だからね……これからも、その成長したアレンの隣で生きていきたいの。ずっと、一緒に」
その一言に、思わず息が止まった。
これって……まさか……
「今回の作戦で、アレンが“相棒として一緒に進めたい”って言ってくれたの、本当に嬉しかった。
アレンの作戦はすごいわ。心が震えたもの」
ミラは少しはにかみ、そっと言葉を紡ぐ。
「この作戦が成功して、世界が変わる瞬間にアレンの隣にいられるなら……私は、それだけで幸せ。
だから、これからも……末永くよろしくね、アレン」
そう言ってミラは軽くウインクしてみせた。
茶目っ気たっぷりの仕草だけど、言葉に込められた想いは間違いなく本気だ。
(……これ、やっぱり告白だよな?)
保護者でも恩人でもなく、“俺の隣にいたい”。
末永く、と言ってるし……さっきのキスも……
その意味を、鈍い俺でも理解できた。
以前からミラは俺を溺愛していたけど、それは母性愛だったはずだ。
でも……俺がメルジーヌを倒し、ミラを助けたところで、例の契約魔術が切れたから……それで、なんか変な乙女スイッチが入っちゃったのか?
でも――俺の気持ちはどうなんだ?
守ってくれて、育ててくれて、支えてくれた人。
だけど今目の前にいるのは、強くて優しい“聖女ミラ”。
その姿は……どうしようもなく綺麗で、色っぽくて。
俺のために命まで投げ出した人だ。
好きになって何が悪いんだろう。
(いやいや、落ち着け。さっきまで保護者だぞ?
急に美人になったからって……いや、でも綺麗すぎるし……)
混乱しながらも、ミラが俺を“対等な相棒”とみなしてくれたことは嬉しかった。
だったら俺も、ちゃんと言わないと。
「ミラ……ありがとう。
俺、ずっとミラの背中を追いかけてきたんだ。
いつかミラに頼られる男になりたいって思ってた。
だから、少しでも認めてもらえたなら……嬉しいよ。
これからは相棒として、末永くよろしく。
……愛人じゃなくてね」
そう言って俺も冗談ぽくミラにウインクを返してみた。
このくらいの軽さが今の俺たちにはちょうどいいんじゃないだろうか。
「えーっ、それはちょっと不満ねぇ?」
ミラは腰に手を当てて頬をぷくっと膨らませる。
けれどその瞳は、嬉しそうに笑っていた。
ああ――本当に、この人と並んで歩いていきたい。
「まあ、ミラの相棒になったら……たぶん波乱万丈だよね。
魔王様だし、聖女様だし、普通じゃ済まないよね」
「なーに言ってるのよ。
アレンだって、魔王様の愛人でしょ? 聖王陛下の隠し子で、さらには死神じゃない?
どう考えても平凡な人生になるわけないじゃない」
ミラの突っ込みに苦笑する。
愛人とか死神とか……ミラが言ってるだけで、全く実体はないんだけど。
でもまあ、確かに俺の人生も普通とは無縁なものになりそうか……
「師匠! さすがの切り替えしですね。
じゃ、そろそろ城に向かいますか」
「ええ、行きましょう。
私たちの新しい冒険の始まりね!」
ミラが笑顔で歩み寄ってくる。
これから何が起きるか分からない。
けれど――ミラと一緒なら、きっとどんな困難も乗り越えられる。




