□ 2-6 魔王城から無事に帰るための策を練る(その4)
「えーっと、メルジーヌが作った魔族の国……名前は確かメルジニアだよな。
メルジニアとラミビア聖王国って、もう何百年も不可侵協定を結んでるんだよね。
で……聖王国はずっと、生贄を差し出し続けてきた、と」
話しながら、俺は頭の中を整理していく。
「でさ……いっそミラが“メルジーヌとして”聖王国に出向いて、この協定を改正しちゃうのはどうかなって思うんだ。
二国間で正式に国交を結んで、メルジニアと聖王国が平和的に交流できる、って形にする。
そうすればミラは魔族の姿でも堂々と聖王国で暮らせるし、『生贄の廃止』を目玉にして大々的に発表すれば、聖王国にとっても大歓迎だ。
魔族だって、この森に閉じこもってるより交流したほうが絶対に発展すると思う」
一気に言い切ってから、ミラの様子をうかがうと――
彼女は驚いたように目を丸くして、けれど興味深そうにじっと俺を見つめていた。
よし、悪くない手応え。
「問題は、どうやって協定改正の話に持っていくか、なんだけど……
やっぱりミラの案どおり、“メルジーヌが魔族の前で引退を宣言する”ところから始めるのが自然だと思う。
引退するなら生贄はいらない――そこから『生贄をやめる代わりに国交を』って流れに持っていく。
これをメルジーヌ引退前の最後の大仕事として、メルジニアの未来に残す置き土産にするんだ」
俺はさらに踏み込む。
「交渉には時間がかかるから、その間はシーラを女王代理に任命。
副宰相が務まるんだし、女王代理だっていけるだろ?
最終的には正式に女王にする。イグニスもいるし、支える体制は整ってる」
ミラは聞きながら表情を変え、次第に真剣そのものになっていく。
俺は勢いのまま締めに入った。
「全部がうまくいけば、ミラ――いや、メルジーヌは無事に引退。
そして俺たちは気ままな旅に出る。
まあそこはミラの案と同じなんだけど……協定が変われば不可侵の縛りもなくなるし、ミラも普通に聖王国で暮らせるようになるってわけだ」
話し終えると、ミラはじっと俺を見つめた。
やがて――ぱっと顔を輝かせる。
「……驚いたわ、アレン。
か し こ ー い!! ……とかいうレベルじゃないわね」
誉め言葉かと思いきや、ミラはニヤっとしながら続ける。
「もういちいち抱きついたりしないわよ?」
(えっ、ぎゅーしないのか……?)
一瞬、微妙な顔をしてしまった俺を見て、ミラはクスクスと笑った。
「もう、私あっけに取られちゃった。
古のアレクサンドロス三世かと思うような知略じゃない!
不可侵協定の改正? 魔族と聖王国の交流?
生贄をやめる?
そんなこと実現したら、アレンは聖王国の英雄よ」
ミラは興奮気味に、きらきらした目で続ける。
「城からどうやって帰るか、ってだけの話だったのに……まさか協定の根本から変えにいくなんて。
アレンの頭の中、どうなってるの? 本当に中身は別人じゃないの?」
「いや、褒めすぎだよ。
単なる思いつきだし、実現までの道のりは遠いよ……」
俺は頭をかきながら続けた。
「それに、この作戦の中心はミラだし。
魔族を納得させて、シーラに王位を譲って、聖王国と交渉まで……全部、ミラがやることになる。
ミラの負担が大きすぎるんだよ」
メルジーヌを倒したミラが、そのメルジーヌとして生き続ける――
それは確かに酷だ。
「そうね……簡単じゃないわ」
ミラは少し考え込み、そしてゆっくり微笑む。
「でもね……すごく魅力的だなって思ったわ。
今の生贄の協定って、ひどすぎるでしょう?
人族は魔族を恐れ、魔族も人族を信用できない。
そんなの、もう終わりにしたい。
協定がなくなれば、お互い手を取り合える未来が来る。
新しい文化、技術……世界はもっと広がるわ」
夢見るような声だった。
「それに比べて、私の案……ただ逃げるだけ。
アレンはどうしたいの?」
静かに問われ、俺はしばらく考えた。
ミラの期待、俺の願い、世界が変わる可能性――
全部が胸の中で熱を帯びていく。
「……ミラ。
俺、この作戦……挑戦してみたい。
ミラと話して、ますますやってみたくなったんだ。
今回の戦いで初めて、自分で運命を切り開く楽しさを知ったんだ。
世界が変わるチャンスが目の前にあるなら、逃げたくない」
まっすぐミラを見つめて言う。
「ミラの負担にはなるけど……
俺はミラの相棒として全力で支える。
だから一緒に、この作戦……進めてもらえないかな」
ミラの瞳が大きく揺れ、ほんのり涙がにじむ。
やがて――
「アレン……ほんとに、立派になったね」
ミラは目元を拭って、優しく微笑んだ。
「もちろん、やらせて。
それに私も、もう魔族の女王なんだもの。
人族との関係は、絶対に改善したい。
だからこれは――私の願いでもあるわ」




