□ 2-5 魔王城から無事に帰るための策を練る(その3)
俺は頭の中でいくつか案を並べてみた。
(案1) 『旅に出る』と言って城を出る。
(案2) 誰かに王位を譲って『引退』として退場する。
(案3) 『聖王国での仕事がある』と言って、一時的に離れる。
現実的なのはこのあたりだろう。
案1はシンプルだが、女王が責任を投げ捨てて旅に出る――そんな理由、部下たちが認めるとは思えない。
案2は一番筋が通っている。後継者のシーラもいるし、引退と説明すれば納得はしてもらえそうだ。ただ、どうやって引退の話に流れを持っていくか……
案3は仕事を理由にする案だが、あくまで時間稼ぎだ。いずれ戻る前提なので根本にはならない。
そもそも、どの案にしても“聖王国に帰ってから”のことを考えると頭が痛い。
『狂気の魔女メルジーヌ』が聖王国に現れたら大騒ぎだ。
姿を隠したとしても、角や尻尾はどうしようもないし、魔族というだけで迫害されるのが聖王国だ。
さらに不可侵協定。
アモアンダの森から出ることすら、魔族側が全力で反対するはずだ――。
(……前途多難すぎる……)
俺は頭を抱え込んだ。
……そのときだ。
ふと、一つの案が頭に浮かんだ。
(案3――これ、真面目にやるのはどうだ?)
ミラが“メルジーヌとして”動き、
聖王国との不可侵協定を改正する。
ついでに、生贄の協定を破棄する。
ミラにはその力と地位がある。
もし成功すれば――
魔族と人族はもう争う理由がなくなり、いずれは普通に行き来できるようになるかもしれない。
ミラも“魔族として普通に暮らす”道が開ける。
(……あり……なのか?)
いや、突拍子もない案だとは思う。
でも、よく考えればメリットは大きい。
魔族は森から出て活動できるようになり、聖王国も生贄を差し出さずに済む。
文化交流や交易が生まれれば、両国の発展にもつながる。
悪くない。
むしろ……案外すべてが解決する可能性だってある。
でも―――まずは、ミラの意見も聞いておいた方がいいよな。
メルジーヌ本人でもあるわけだし。
「ねえ、ミラ」
俺は考えながら口を開く。
「メルジーヌが城を出るってなると、部下たちを納得させる理由が必要だと思うんだ」
ミラは軽く考え、穏やかに頷いた。
「そうよねえ。急に出ていくなんて言ったら、そりゃあ揉めるわね」
そう言いながら、ふっと微笑む。
「でも、メルジーヌはもう何百年も女王をやってるわけでしょ?
いつ引退してもおかしくないのよ。
だから『引退して旅に出る』って理由はどうかしら?
それに――」
ミラの目がきらりといたずらっぽく光る。
「ちょうどアレンを愛人にしちゃったわけだし。
可愛い愛人ができたから、二人でのんびり暮らしたい……って理由も使えるわよ。
おほほ!」
「な、なに言って――」
俺は一瞬ドキッとし、顔が熱くなる。
ミラはわざとらしく口元を隠して笑っている。
「え、いや……でもさ。部下たちが納得しなかったら?」
ミラは軽くため息をつき、肩をすくめながら答えた。
「そしたら、問答無用で『探しに来たら殺す』って宣言して出ていくしかないでしょ?
メルジーヌは最強なんだから、誰も逆らえないわよ」
「そのときは、『探しに来たら殺す』って言っておけばいいじゃない。
メルジーヌは最強なんだから、誰も逆らえないでしょ?」
「……なるほどね」
乱暴だが理屈は通っている。
これは案1と案2の折衷案だ。悪くない。
「ミラの案、かなり現実的だと思うよ。
円満ってわけにはいかないかもしれないけど……」
そして俺は、もう一つの懸念を口にする。
「でもさ、不可侵協定はどうする?
森を出るだけで大問題だよ。
魔族が聖王国内を歩けば、すぐ騒ぎになるだろうし、部下たちが反対しそうだ」
ミラは腕を組み、すぐに柔らかく微笑んだ。
「引退したらもう女王じゃないもの。
“人族に扮して、こっそり暮らします”って言えばいいのよ。
角や尻尾は隠せば何とかなるでしょ?」
「……押し切れなくもないか」
ただ、ミラに“ひっそり暮らす”のが合っているかは分からない。
メルジーヌとしては目立つし、普通に生活しても目を引くだろう。
だからこそ、俺は自分の案を話す決意をした。
「実はさ……俺も、一つ突拍子もない作戦を思いついたんだ。
聞いてほしい」
「もちろん。アレンのアイデア、楽しみね」
ミラが期待に満ちた目を向ける。
俺は深く息を吸い――
自分の“ぶっ飛んだ”案を語り始めた。




