□ 2-4 魔王城から無事に帰るための策を練る(その2)
「さあ、アレン」
ミラがにっこり微笑む。
「これからはアレンにアイデアを練ってもらうのがいいかなと思うの。
メルジーヌも幻術で倒したんでしょ?
魅了対策も見事だったし。
だから……これからは、もっと頼っちゃおうかな」
ふわりと距離を詰めながら、ミラはじっと俺の目を覗き込む。
(え、急に俺に丸投げ!?)
でも……大人扱いされてる気もして、少し嬉しい。
「わ、分かったよ……」
ここで恰好つけなきゃ男じゃない。
やるべきことはただ一つ――魔王城に行き、話をつけて、無事に帰る。それだけだ。
とはいえ、敵の情報がなければ作戦は立てられない。
「ミラって、メルジーヌの記憶があるんだよね?」
「ええ、なんとなくね?」
「じゃあさ、まず魔王城の人間関係を思い出せる?
どんな連中がいるか分かれば、対策を立てやすいし」
「それもそうね! じゃあ順番に行くわね」
ミラは軽く考え込み――そして、いきなり爆弾を落とした。
「私にはシーラっていう娘がいるらしいの」
「……は?」
一瞬、俺の脳がフリーズする。
「む、娘!?」
「ええ、そうみたい」
あまりにさらっと言うな、この人は。
「つまり……ミラにとっては、突然、娘ができたこと?」
「そうなるわね?」
待て待て待て。
いや娘どころじゃない。家族も、部下も、領民も……全部引き継いだってことだ。
(ミラ……これ、メルジーヌとして生きていく方が自然なんじゃ……?)
俺は動揺し、思わず視線を落とした。
「アレン、何ショック受けてるのよ」
「え、いや……」
ミラは呆れたようにため息をつく。
「メルジーヌに娘ぐらいいたっておかしくないでしょ?」
「そ、そりゃそうだけど……でも、ミラは……その、メルジーヌとして魔王城で生きていく、って選択もあるかなって」
「まあっ、アレンはそんなこと考えてたのね」
ミラは少し驚いた顔をしたあと、ふふっと微笑んだ。
「……確かに選択肢としては無くはないけど、でもね。
メルジーヌを“殺しておいて”、本人になり代わるって……さすがに無理よ」
「あ……」
言われて気づく。
そりゃそうだ。殺した相手として普通に生活する? 無茶な話か。
「魔族の世界でアレンと大活躍、っていうのも楽しいかもだけどね。
まあ、今のところは無し。
魔王城には長居しない方向で考えましょう。
それに王宮方面にも貸しがあるし」
ミラはあっさりと言うが、俺には救いの言葉だった。
これまで通り一緒に生活できる――それが本当に嬉しい。
正直、王宮方面はもうどうでもいいけどね。
「うん……ありがと、ミラ。
俺も帰るための作戦、しっかり考えるよ」
ひとまずホッとしたが、問題はまだ山積みだ。
ミラが城を出ていくと言ったって、メルジーヌの娘や部下が納得するとは思えない。
どんな作戦で切り抜けるか……今はまったく見えない。
「じゃあ、話を戻すわね。
娘のシーラは、魔王城では副宰相をしてるみたい。
宰相はイグナスっていうおじいさんで、実務はほとんど彼女が担当してるの」
「しっかりした娘さんなんだな」
「そうみたいね。あと、シーラの父親はエルフ族のメイオンっていうんだけど、メルジーヌの正式な夫ではなかったみたい。
今は行方不明で、どこにいるか分からないの」
「へえ……そのあたりも事情ありそうだな」
「それと、秘書にジャスミンっていう妖魔がいるの。
仕事できるし、洞察力がとんでもなく鋭いわ。
彼女は特に注意した方がいいかも」
「あー……秘書さんはやっかいなのか……」
「それと、親衛隊長に鬼族のロイ。
戦闘力は抜群で、部下からの信頼も厚いけど、ちょっと頑固で融通が利かないタイプかな。
とりあえず重要なのはこのあたりね」
「ありがとう。これで考えてみる」
ミラがこんなにすらすらと記憶を引き出せるのは驚きだが……とにかく、材料は揃った。
あとは、魔王城からどうやって“円満”に帰ってくるか――それを考えなければならない。




