□ 2-3 魔王城から無事に帰るための策を練る(その1)
「ち、ちょっと、ミラ! この距離はマジでヤバいって」
俺は必死に理性を振り絞り、ミラの抱擁からどうにか抜け出した。
中身はミラでも、身体は感染に淫魔そのものだ。
本人にその気がないのは分かっているが、年頃の男子には刺激が強すぎる。
「そ、それより、ミラ!
魔王城の対策!
このまま準備なしで行ったら、無事に帰ってこられないって!」
無理やり話題を方向転換する。
「もう! なによ。
ちょっとぐらい“ぎゅー”しててもいいでしょ?
せっかくアレンが『綺麗』だって言ってくれたのに、急に冷たくない?」
やはりダメだったか。
ミラは腕を組んで、不機嫌そうにプンスカしている。
……いや、この人、自分の身体の破壊力を全く分かってない。
「あ、いや、そういうんじゃなくて。
なんというか、その……」
どう言えばいいんだ、これ。
「はっきりしないわね」
ミラが頬を膨らませて俺を睨む。
……くっ。この期に及んでは仕方がない―――俺ははっきり言ってやった。
「えー、はっきり申し上げますと、その、俺の股間のモノが、エレクチオーン」
ミラの動きが、ぴたりと止まった。
「…………」
視線が俺の下半身へ。
そして――
「~~~~っっっ!!」
耳まで真っ赤になって固まった。
そして、恥ずかしそうに顔を伏せた。
(かっ……可愛いっっ!)
思わず心の中で叫んでしまった。
アダルティーな成熟した美女なのに、まるで初々しい乙女のようだ。
(こ、これが……ぎ、ギャップ萌え、というやつなのか~っ!)
新たなミラの魅力に、危うく意識を持っていかれるところだった。
「……そっ、そうよね。アレンも男の子だものね……」
ミラは指先をもじもじ絡め、目を伏せている。
だけどこの人、自分が原因だって、分かってるんだろうか。
いつも無遠慮に抱きしめてくるけど……その身体はまさに“サキュバス”なのだ。
「えーと……その、ミラもちょっと自覚してほしいというか……」
「じ、自覚……?」
「そう。その身体。
魅力がありすぎて……その……俺、イケナイ気持ちに。
ミラ相手に、そんなのはダメだと思うし……だから、もう……あまりくっ付かない方が……」
「……え?」
ミラが瞬きをして固まった。
「ダメなんて、ないわよっ。
わ、私だって……魅力的って言われたら……嬉しいんだからっ」
ミラは慌てて付け加える。
いや、そういう訳にはいかない。
問題は、俺がミラにムラムラしちゃって、一線を越えてしまったら、どうするのか。
「ミラ、残念だけど……」
俺は深く息をつき、ゆっくりとかぶりを振る。
そして――“最後通告”を突きつけた。
「もう『ぎゅー』と『ナデナデ』は……卒業です。完全に」
「そ……そんな……」
ミラの表情が一瞬で絶望に染まった。
(え、そんなにショック受ける!?)
まるで世界の終わりを宣告されたかのような顔なんだが。
……いや、俺も分かってはいるのだ。
ミラはいつも俺を子供みたいに可愛がってくれるし、それが悪いわけじゃない。
でも俺だってもう15歳だし、もう“子供扱い”は卒業したい。
ミラは呆然と立ち尽くし、やがてうつむいて肩を落とす。
ミラには悪いが、これで少しは子離れしてもらえたら――
そう思った矢先だった。
「……アレン!!」
「ひゃっ!?」
突然、雷みたいな声で呼ばれた。
ミラがビシッと俺を指差す。
「ちょっと! 見た目が変わったくらいで、態度まで変えるのひどくない!?」
「いや、でも……」
「ガワが変わっただけでしょ! 中身は同じよ!」
「……えーと」
いや、ガワの破壊力が桁違いなんだよ。
完全に別人――いや、別種族になってるし。
「だいたいね!
好きでこんな破廉恥な格好してるわけじゃなんだから!
元の身体は焼いちゃったし、仕方ないでしょ!」
「……それは、まあ……」
「一人前の男なら、女性に優しくしなさい!!」
ぐっ……!
そう言われると反論できない。
ミラだって好きでこうなったわけじゃない。
魂を移したのは俺だし、責任もある。
(でも、“女性として意識する”的なやつは……別問題なんだよな……)
葛藤している間に、ミラが大きく頷きながら続ける。
「いいじゃない。そばに魅力的な女性がいるのは、悪いことじゃないでしょ?
そのうち、落ち着いた服も探すから。
アレンには、早く慣れてもらわないと困るわね」
「……ヘイ」
なんか、うまく誤魔化された気がするような。
また俺を猫可愛がりしたいだけじゃないだろうな?
「さあっ! 魔王城の対策だったわね!
準備は大事よ!」
「……」
元気に戻ったミラを眺めつつ。
(まあ、いつものミラだ……)
と、どこか安心してしまう俺だった。




