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□ 1-19 サキュバスの愛人

 まずい、これは……

 ミラの身体が、なんか……すごいことになってる。


 具体的には、その、おっぱいの膨らみが……

 俺の顔に、しっかりと密着してるのだ。

 いい匂いまでしてくる。


 おまけに、太ももが俺の腰にピッタリくっついている。

 これは、いろいろとまずい。


「あ、あの……ミラ」


「何かしら?」


「そのぅ……その身体でそんなに密着されると、ちょっと……

 思春期の男子としては、なんというか……いけない気持ちが……」


 俺がそう言うと、ミラはぱっと目を見開いた。


「まあ!」


 ようやく自分の状態を理解したらしく、ミラは慌てて身を離し、自分の身体を見下ろした。


「そうだったわね。

 私、サキュバスの身体なんだった……」


「ミラ……」


「大丈夫よ。もうこれは私の身体なんだから。

 ありがたく使わせてもらうわ。

 ほんと、アレンには感謝してるのよ。

 命さえあれば、後は何とでもなるもの」


 ミラは気丈にもそう言ったが、その顔には、むしろ楽しそうな表情が浮かんでいる。


「それに……こんなに若返って……これはこれで良さそうだわ……

 肌なんてツルツルですべすべだし。

 なんか……出るとこ出てるし……足も長いし、髪もこんなに長くて綺麗」


 ついには、ぺたぺた自分の身体を触り始めるミラ。

 前の身体とはあまりにも違いすぎるのだから、無理もない。


「……うん、これはこれでアリね!

 気に入ったわ……おほほほほほほ」


 ミラは満足げに高笑いまで始めてしまった。

 落ち込んでいないのは助かるが……だいぶテンションが高い気がする。


「うっふん……どうかしら、この身体?

 アレンの好みじゃない?」


 ミラは茶目っ気たっぷりの笑顔を浮かべながら、両手を腰に当てて胸を突き出してくる。

 このポーズ、メルジーヌが俺たちにやっていたやつだ。


「……おたわむれを」


 角も尻尾もあるのに、浮かれ気味すぎて心配になる。

 そこへ、ミラが急に声を潜めた。


「それにね、アレン。私、気づいちゃったの。

 あれが切れてるのよ」


「えっ、何が?」


「アレよ。……契約魔術」


 えっ、それって……?

 ミラが子供のころ、教皇に(ほどこ)されたっていう、死ぬまで結婚できないとか、恋人を持てない、っていうあれですか。

 そうか――ミラは一度死んだから、契約が解除されたってことなのか。

 この契約のせいで、王宮ではずっと独り身だったって話だけど……


「だから、ね」


 ミラは一呼吸置くと、とんでもないことを言い出した。


「私だって……アレンを誘惑しちゃうことも……できるのよね。

 サキュバスだし」


「へ?」


 次の瞬間、ミラは俺の肩を両手で掴むと、顔を近づけてきた。


「ちょ、ミラっ!」


 キラキラした目をしたミラの顔がどんどん近づいてくる。

 俺はまたドキドキしてきた。

 この急な展開はどういうことだろうか。

 さっきまで感動して泣いてたはずなのに。


「うふふ……坊や。

 わたくしの“愛人”にしてあげますわ」


「え?」


 このセリフは……メルジーヌ?

 まさか、メルジーヌの人格が表に出てきてしまったのか。

 ミラが『坊や』とか『愛人』なんて言うわけないし。


 俺はまた窮地に立たされてしまったのか?


「あの……もしかして、メルジーヌさま……なのですか?」


 恐る恐る聞いてみる。

 するとメルジーヌ? は、なぜかちょっと不機嫌になって俺を凝視している。


「……ふうん、アレン。

 ほんとに愛人になっちゃってたの?」


「???」


 会話が噛み合っていない。

 え、もしかしてミラ? メルジーヌ? どっち?


「えーと……あなたはミラなんですか?

 それともメルジーヌさま?」


「ミラよ!

 なんでメルジーヌは『さま』付けなのよ!」


 ミラだった。

 でも、何でそんなに怒ってるのだろうか。


「私ね、うっすらとメルジーヌの記憶もあるみたいなのよね」


「えええええええ??」


 マジですか。

 すると、転写の魔術は不完全だったのか?

 まあ、元々かなり無茶なやり方だったし……

 ミラの精神は大丈夫なのだろうか。


「アレン、メルジーヌにキスされちゃったでしょ」


「え? そこ?」


「ちょっと許せないのよね」


 ミラはそう言うと、妖艶な笑みを浮かべながら、俺のほっぺたをグイっと両手ではさんだ。

 そして――


 そのまま俺の唇を奪った。


「っ……!!!?」


 ミラの柔らかな唇を感じながら、俺は反射的に目をつぶった。

 いったい何が起こっているというのか―――あのミラが、急にキスしてくるなんて。

 もしかしてメルジーヌの意識が……?


 ミラが唇を離した。

 目を開けてみると、そこには満面の笑みを浮かべたミラの顔があった。


「うふふふ、しちゃった……ファーストキス」


(……ファースト?)


 ミラの?

 ……ってことは、やはりメルジーヌではないと。

 それなら、いったい何でキスをされたのか……?


「さあ……これでいいわ。

 これからもよろしくね。

 私の愛人さん」


「はあっ???」


 “これでいい”とは、何がどういいのか。

 なぜに愛人?

 全くわけが分からない……


 ともあれ、この瞬間から――

 俺はどうやら、サキュバスの愛人になってしまったらしい。


これで第一章は完結です。

「あらすじやプロローグと展開が違うじゃないか!」とお怒りの方もおられるかと思いますが、もう少し先を読んでからご判断いただけたらと思います。


第二章も乞うご期待!


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