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休日のランチ

 休日の昼下がり。

 約束の時間より少し早く、俺は駅前の広場に立っていた。

 太宰府以来の“デート”というわけじゃないけど――どうしても落ち着かない。


 スマホを何度も確認しては、時間が進んでいないことに小さくため息をつく。

 普段は休日に出歩くタイプじゃない俺が、こんなふうにソワソワするなんて、ちょっと信じられなかった。


「佐伯さん?」


 声に振り向いた瞬間、息が止まりかけた。

 そこには、私服姿のセリさんが立っていた。


 淡いグリーンのブラウスに、白いスカート。

 ふわりと風に揺れる髪と、ナチュラルな笑顔。

 いつも受付で見ている制服姿とはまるで印象が違って――正直、目を奪われた。


「お待たせしました」


「あ、いえ……俺が早く来ただけなんで」


「ふふっ、相変わらず律儀ですね、佐伯さん」


 軽く笑われたのに、なぜか嫌じゃなかった。

 むしろその笑顔が、少し眩しく感じる。


「じゃあ、行きましょうか。いいお店、見つけたんです」


「えっ、セリさんが探してくれたんですか?」


「はい。“お礼”ですから。ちゃんとご馳走させてくださいね」



 駅から少し歩いた先のカフェレストラン。

 外にはテラス席もあり、店内は木目調で落ち着いた雰囲気だった。

 ランチタイムのピークを少し外していたおかげで、席も空いている。


「こういうお店、あまり来ないので新鮮です」


「意外ですね。佐伯さん、こういうの似合いそうなのに」


「……いやいや、そんなことないですよ」


 俺が苦笑いすると、セリさんがくすっと笑う。

 カップに注がれた水の音がやけに心地よく響いた。


 料理を注文し、少し落ち着いた頃――


「この前の太宰府、すごく楽しかったです」

 セリさんが、ふと優しい声で言った。


「そう言ってもらえると、うれしいです」


「なんだか、久しぶりに“普通の休日”を過ごした気がしました。……佐伯さんのおかげです」


 その言葉に、不意に胸の奥が熱くなる。

 俺なんかの案内でも、彼女にとってはちゃんと“特別な時間”になっていたのか――そう思うと、少しだけ誇らしかった。


「また、案内してくれますか?」


 一瞬、時間が止まったような気がした。

 セリさんの瞳が、まっすぐこちらを見ている。

 ほんの少しの照れと、期待が混ざったようなまなざしだった。


「もちろん。よかったら、次はどこ行きたいですか?」


「うーん……そうですね。まだ行ったことないところ、たくさんあるので……」


「決まったらまた声をかけてください」



 食後のコーヒーを飲みながら、他愛もない話をした。

 仕事のこと、趣味のこと、少しだけ昔の話も。

 時間が経つのが、驚くほど早く感じた。


「今日はありがとうございました。……本当に、楽しかったです」


「こちらこそ」


 店を出ると、午後の光がやさしく差し込んでいた。

 ほんの少しだけ距離が近くなったような気がして、俺は自然と笑みをこぼした。

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