表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

始まりの手掛かり

 休日の天拝山から、数日がたった。

 昼休みの食堂。俺と橘さんは、いつものように窓際の席に座っていた。


「……あの日、神社の前で感じた“なにか”が、ずっと気になってるんです」


 箸を止めた橘さんの声は、少しだけ沈んでいた。

 俺もあのときのことを思い出す。鳥居の鈴が鳴った瞬間の、あの空気。

 ただの気のせいじゃない――そんな気がしていた。


「やっぱり……あれ、何かあったよな」


「はい。もしかしたら“転移”と関係があるかもしれないんです」


 転移――その言葉に、胸の奥がざわついた。

 彼女がこの世界に来た理由は、まだ何もわかっていない。

 でも、あの日感じたあの感覚が関係しているのなら……。


「じゃあ、一緒に調べてみましょう」


 そう言うと、橘さんは少し驚いた顔をして――それから、ふっと笑った。

 その笑顔が、不意打ちみたいに胸の奥に落ちてくる。

 ……なんで、こんなときにドキッとするんだ俺。



 後日。

 俺たちは、図書館と郷土資料館を回った。

 棚に並んだ古い本や郷土誌を開いていくと、天拝山や太宰府に関する伝承がいくつも出てくる。


「……ここ、見てください。鍬柄橋……鯰石……?」


「針摺石もあるな。けっこういろんな話が残ってる」


 橘さんが資料に指を添える。

 その指先が細くて白くて、自然と目が吸い寄せられてしまう。

 慌てて視線を逸らし、資料に集中するふりをした。……落ち着け、俺。


 資料には、道真公にまつわる逸話と、地名の由来がびっしりと書かれていた。


「きっと……なにかありますね」


 彼女の声は小さいけど、どこか確信めいていた。

 まっすぐ前を見つめる横顔に、なんだか胸が少し熱くなる。



 週末。

 俺たちは車で、その場所を実際に回ってみることにした。

 針摺石、鍬柄橋、鯰石――資料で見た伝承地だ。


「俺、小学生のときに行ったことあるんですよ。遠足とかで」


「そうなんですか? じゃあ、案内してもらえるってことですね」


「昔なんであんまり覚えていないですけど」


 橘さんが、いたずらっぽく微笑む。

 ほんの少し近づいた距離と、柔らかい笑顔に胸がドキッとする。

 ……やっぱり、この人の笑顔はずるい。


「……あのとき感じた“なにか”と、この土地、きっとつながってる気がするんです」


「確かめよう。今度は、俺たちの目で」


 夕焼けの空の下、橘さんがうなずく。

 その横顔を見ながら、俺も小さく息を吐いた。

 小さな調査だけど――ここから何かが動き始める、そんな気がしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ