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試合観戦

 ガァン! と鉄と鉄がぶつかり合う音が響く。わぁっ、と歓声が上がった。守備側がボールを持った攻撃側の選手を弾き飛ばしたのだ。

 ボールが転がる。それを確認した両チームは倒れた選手には目もくれず、すぐに走る。

 すでに前方に待機していたオフェンス選手がボールを手にしていた。しかしディフェンスの選手も待機している。両者共に真っ向からタックルする。


 私はと言えば情けないことに、選手たちが激突するたびに首を竦めていた。


「あんな飛竜に乗っているくせして、小心者じゃの」


 隣に座るお爺さんはそう言うが、痛いのは見るのも嫌いなのだ。地面に倒れている者たちの中には、明らかに腕の骨が折れて変な方向に曲がってる者もいる。ああいうのは直視できない。


「メルセデスも私も非戦主義者でして」

「そもそも戦いにならんだけだろう」


 亜種とはいえ竜種に勝てる相手はそういないからね。おかげで助かっている。戦闘能力ゼロでも困ったことはない。

 ……いや、スライムに殺されそうになったことはあるか。あまりにあり得なさ過ぎてメルセデスも遊んでるだけと思ってたようで、すぐ近くにいたのに助けてくれなかったんだよな。あれはヤバかった。


 一際大きい歓声が地響きのように鳴る。

 得点だ。攻撃側の一際大きい選手が相手の陣地にボールを運んだ。三人にタックルされながらも、それを引きずるように進んでのゴールは鮮烈で、スタジアムが沸く。

 どうやらカルジュチームが得点したようだ。


 ゴールした選手はすぐに踵を返すと、コートに横たわる仲間を担いで自陣へと運んでいく。他の選手にも大きな声で消耗はないか聞いて、何人かが控えの選手と交代する。相手の陣形を見て守備位置の指示も出していた。

 どうやら彼がカルジュのリーダーなのだろう。体格が良く、頭も良く、人望もあるのが伝わってくる。


「フン、見ておれ。ああいうのから狙われる」


 お爺さんの言ったとおりだった。ボールを持った国境側の選手と、それを守るように取り囲む選手たちが彼に向かって突っ込む。

 あえて一番体格のいい選手に向かっていくのは、明らかに怪我をさせて戦力を削ぐ目的だろう。

 だが防御側もそれを読んでいたのか、彼を中心にして壁を作る。


 ガァン、と大きな激突音。






 国境チームの選手たちは国の要所を守る兵士たちで主に構成されているだけあって、練度が高く連携もとれているようだった。また、かなり荒っぽいのも特徴的だ。

 対するカルジュチームは国境チームと比べれば、全体的に少し小柄でマトモなぶつかり合いは不利そう。ただし一人だけいる大男が強力で、的確に指示を出しつつ自身のフィジカルを最大限に活かして攻守に活躍する。

 チームの精神的支柱にもなっているようで、周りの観客たちも彼のプレイに一喜一憂していた。


 自然、カルジュチームのリーダーが試合の中心となっていた。


 三人にタックルされる。真正面からそれを受けたカルジュのリーダーは、しかし倒れない。ボールを持った相手選手の肩を掴んで引きずり倒す。

 攻守交代。得点があってからの最初の攻撃ターンは速攻の意味が薄い。だから両チーム落ち着いて陣形を整える。……ボールを持つのはもちろん彼だ。


 思わず見入る。こういうのは苦手なのに。


 激突音。ただし妙な異音がした気がする。

 ボールが地面に転がる。同時に、その近くになにから落ちた。それを見てスタジアムがざわめく。

 肩当てだ。見れば、カルジュのリーダーが身につけた鎧の左肩部分が大きく破損していた。


「こ、これどうなるんです? たしか――」

「鎧が破損した選手は再入場できんな。応急処置でもなんでもくっつければ別じゃが……」


 国境チームの選手の一人が倒れ込むようにして跳んだ。地面に転がった肩当てを肘でさらに破損させる。

 相手チームとその応援からの歓声が上がる。

 倒れた相手への攻撃は認められていない。だが、転がった鎧の一部への攻撃までは禁止されていない。これはルールの範囲内のプレイ。


「ああ……」


 他の選手より明らかに大柄な彼の鎧は、おそらく特注品だ。他の選手の肩当てをくっつけることはできない。

 彼はもう、この試合中は参加できない――


「あれ?」


 速攻しようとした相手選手を彼がタックルで止める。そして大声で檄を飛ばして、左肩が露出した腕を高く掲げる。


「壊れた鎧で戦に赴くことはできん。じゃが、戦場で装備が壊れるのはよくあることじゃ。――退場しなければ問題ない」


 これは戦争を模した訓練から始まった競技。だからどこまでも荒々しい。

 彼は再入場はできないが、退場するまではプレイできる。

 カルジュチームが速攻する。


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